サーガイアの風見鳥
黒いスーツに黒い鞄をひっさげた上条の姿は新鮮だったが、それでも上条は上条だった。冗談で着ているようにしか思えない。とても就職活動に勤しんでいるようには見えなかった。
「す、進み具合は、どう?その……」
「ぼちぼちだ。お前はどうなんだよ。OB訪問行ってきたろ」
「え、うん、まあ……」
「もっと気を利かせろよ。そういうとこ見られてんだからな。ほれ」
上条は、小脇に抱えた縦長の箱を投げよこした。慌ててそれを受け取ると、あのクレーンゲームに入っていた水着の美少女フィギュアだった。
「妹さんによろしくな。通りの携帯電話屋で販売員のバイトやってたぞ」
上条はげらげらと笑って、一足先に出ていった。俺は彼の背中を目で追う。透明なプラスチックから透けて見える箱の中のフィギュアは、白い肌の肉感的な人形だった。変なところにホクロがある。後ろから、あのゲームのエンディング曲が聞こえてきた。