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優しい花

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5.



「しずかせんぱい、おそいよ」

僕は相変わらず静香先輩にくっついていると、甘えたスイッチが入ってしまう。

半年の間に僕は2センチ伸びて169センチになったけど、静夏先輩はものすごく成長して178センチなった。13センチも成長するなんて、遅れてきた成長期なのか、それともあの日静香先輩の中の男が目覚めたからか。真相は謎であるが、アルトの音域だった声もしっかり声変わりしてテノールになった静夏先輩は今や長身美形の仲間入りである。目に比重の偏っていた顔もバランスが取れ、美少年は美青年に。平凡顔主人公に長身美形彼氏なんて、ピッタリ!でしょ?

「ごめんな。敬のためにマカロン買ったんだけど、店が混んでてさ。でも急いで帰ってきたから許して?」
「そうだったの!えへっ、ありがと!へんたいからまもってくれたから、ゆるしちゃう」
「誰が変態だって?」

背後から槍杖様の声が聞こえてきたけれどそんなもの無視だ。だって視野に入ってないもの。

「つうか、静夏お前いつから俺のこと呼び捨てしてんだよ」
「もう夏休み中に引き継いだけど。今頃気付いたのか秀端?4ヶ月前だぞ」

静夏先輩は身長がぐんぐん伸び始めた頃、槍杖 秀端の親衛隊隊長の座を後任に引き継いだ。引き継ぎの際に静夏先輩がしっかりと親衛隊隊員を教育してくれたので、今ではこのように槍杖様に絡まれても嫌な視線を受けることはない。むしろ、静夏先輩の登場はまだかと生暖かい視線を受ける今日この頃。静夏先輩は槍杖様に対する呼称を秀端と呼び捨てにし、対等な関係を築いている。
そして静夏先輩にも親衛隊が出来た。けれど彼らは穏健で、僕たちの行く末を暖かく見守ってくれている。ひいては偏に静夏先輩の性格のお陰である。静夏先輩は半年前本人が語っていたように、貞操が堅い。今でも彼は僕一筋だ。それは僕にとって誇りであり、とても嬉しい。告白されても、僕のことを伝え丁重にお断りするし、思い出作りなる、要は最初で最後のキスと言うものにも絶対に応えないらしい。恋人の鑑たるその態度は評判が良い。静夏先輩は純粋に人を惹きつける力を持っているのだ。しかし、最近思うのだけれど、どうも静夏先輩の親衛隊は、彼の親衛隊というより『静夏・敬を見守る会』とかそういう感じの団体になっている気がする。これ使ってくださいなどと言って、たまにゴムなどを差し入れされるのだが、あれは本当に勘弁してほしい。…使うには、使うのだけど。恥ずかしすぎて、いつか憤死しそうだ。つーかぶっちゃけセクハラだろ。

「しずか、せんぱい」
「なあに、敬」

朝振りに会ったので、嬉しくて名前をつい呼んでしまうのである。静夏先輩もそれを分かっていて、全ての呼びかけに反応を返してくれるので、二人の周りは甘ったるい雰囲気に染まっていく。僕は静夏先輩の首に両腕を掛ける。

「ねぇ、しずか」

特別な時にしか使わない、ファーストネームの呼び捨て。僕の考えを察知して静夏先輩が動く。

「んっ…はぁ…ンふ」

濃く口付けられて、息を漏らす。正直そこまでは望んでなかったのだけど。ちゅくちゅくと音がするのが恥ずかしい。
視界の隅に見えるヘタレが鼻血をこぼしている。屋上の彼は、指を指しヒューヒューだの奇声を上げている。周囲にいた静夏先輩の親衛隊はサービスショットだなど言って喜び、槍杖様の親衛隊は度肝を抜かれている。

「ぁ…」

口腔から舌が出て行くときに上顎を舐められてしまい、情けないことに感じてしまった。羞恥で顔が赤くなる。長くしていたせいで息苦しく、口が半開きのままになってしまうし、顎に唾液が垂れてしまっているのが分かる。

「…ばか」
「あは、敬かわいい」

垂れた唾液を舌先で舐められる。手が腰に添えられてザワザワする。

「…なんつーエロい顔しやがる」

とは会長の言葉。知りませんよ、自覚してそうしているわけじゃなし。
あ、ヘタレの周りが血溜まりになっている。屋上の彼も、「敬なら抱いてもいいな」なんて戯れ言をその小さいナリで言っている。
だがしかし、周囲の声などすでに気にならない。僕はそのまま、静夏先輩の胸に顔を埋めた。先輩は優しく抱きとめてくれる。

「しずかせんぱいだいすき」
「ふふ、俺もだよ」

ああ、静夏先輩が恋人でよかった!

「クソッ…!」
「秀端、気が付くのが遅かったね。お陰様で俺は幸せだけど」

「俺も、男らしくなる…!」
「つーかどうでもいいからメシ食おうぜ」

ヘタレは僕を見つめつつ決意を新たにし、屋上の彼はどうでもよさそうに頭の後ろで手を組んで、盛大に腹の音を響かせている。そろそろ場もカオスになってきたし、お暇致したいところ。静夏先輩を見上げ、アイコンタクトを取る。

「敬、温室に行こうか。お茶とマカロンをご馳走するよ」
「うん!」

優しい花の咲く、あの場所へ行こう。



作品名:優しい花 作家名:まちだ