小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

優しい花

INDEX|3ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

3.



会長を食堂に置き去りにして抜け出してきた僕と静夏先輩(とついでにヘタレ)は、進行形で温室に向かっている。僕は静夏先輩に手を繋いでもらっていて、なんだか嬉しい。
今現在でも、親衛隊からの風当たりは厳しいものがある。しかし、親衛隊隊長に君臨する静夏先輩はこうして僕を助けてくれ、更に懇意にしてくれている。一番の信者であり、会長の恋人候補ナンバーワンであった静夏先輩だが、本人の口から発せられたようにすっかりその恋心及び忠誠心は冷めてしまったようだ。にも関わらず何故未だその地位を有しているのか。それは、静夏先輩がこの学園においてなかなかの実力者であるからだ。彼もまた、顔良し、頭良し、家柄良しの選ばれた人間である。人気ランキングも生徒会に次いでの上位(正式には抱きたいランキング2位)だ。だから、僕のために親衛隊隊長の地位に身を置いてくれている。僕がこうして静夏先輩に擁護してもらっている間、僕は束の間の安息を得られる。この時間は、優しく穏やかで僕にとってかけがえのない時間だ。

そうこうしている内に温室の前まで到着した。

「敬君と二人で話をしたいから、君には申し訳ないけど遠慮してもらえるかな?ちゃんと寮の部屋に送り届けるから」

静夏先輩は柔らかな笑みを浮かべて僕のルームメイトに言った。彼は少し名残惜しそうながらも、よろしくお願いしますと、丁寧に礼をして言った。その顔は精悍で、少しだけ見直した。彼の背を見送ってから僕たちは温室に入った。

ふんわりと漂う花の甘い匂いが鼻を擽る。深呼吸をすると、肩の力が抜けて、体が重く感じた。知らず知らずの内に疲れをため込んでいたみたいだ。それを静夏先輩は察してくれたんだろうか。静夏先輩の許可を得て、午後の授業は今日はサボリだ。ルームメイトがその旨を午後の授業の担当教諭に伝えてくれるだろう。
温室内に置かれた白いソファに座る。二人掛けのこのソファは特等席だ。隣りに座った静夏先輩の方へ体を傾げると、それを支えてくれ、背中を優しく撫でてくれる。あの日から僕が辛い時や疲れた時、静夏先輩は僕を学園内に造られた彼の温室に招いてくれ、こうして慰めてくれる。
こうされると、僕の甘えたスイッチがオンになってしまう。

「えへ、しずかせんぱい」

まるで夢見心地だ。彼の細い体に委ねた場所から幸せが広がるような感覚。頬に触れる柔らかいハニーブラウンが気持ちいい。彼はふふ、と穏やかに笑った。

「ハーブティーを入れようか。敬君の好きなカモミールもあるよ」

静夏先輩が立ち上がってしまうのが残念だけれど、彼が入れてくれる紅茶は本格的で、茶葉も高価なものだし、大してグルメでない僕にもそれがとても美味しいと分かる。

「うん、すき!いれてください」

嬉しくてにこにこ笑ったら、くしゃりと頭を撫でられた。
温室で栽培していたカモミールを摘み取って、ガラス製のポットに入れる。熱湯を注いでしばらく待つと、お湯が薄黄色に染まる。僕のいつも使っているカップ(アンティークらしいので、丁重に扱っている)に、カモミールティーが注がれると林檎のような爽やかな香りが広がった。仕上げに花を一つ浮かべてくれた。カモミールは気持ちを穏やかにしてくれるらしい。見た目も優しいハーブティーは、疲れた僕の心を溶かしてくれるようだ。
静夏先輩はカモミールティーだけでなく、マカロンも用意してくれた。静夏先輩に教えてもらったこの焼き菓子に、僕はすっかり夢中だ。小さなものだというのになかなか値が張るので僕は滅多に手が出せないけれど。フランボワーズの赤、レモンの黄、ピスタチオの緑、チョコレートの茶。一体、どれから食べようか、目移りしてしまう。

「敬君、美味しいかい?」
「はい!すっごくおいしいです」

マカロンを頬張りながら、笑顔で答える。やっと隣りに戻ってきた静夏先輩の体に身を寄せる。敬君は甘えん坊だねぇと言って、また頭を撫でてくれた。繊細な指が僕の髪に絡むのも気持ちがいい。

カモミールティーも飲み終え、マカロンも食べ終えると、麗らかに差し込む日差しが微睡みを連れてくる。静夏先輩の肩に顔を寄せて、眠ってしまってもいいかなぁと考える。

「僕の話を聞いてくれる?」

静夏先輩が静かな声で言った。僕は落ちそうになった瞼を開けて、静夏先輩を上目に見た。

「眠かったら、うとうとしながらでもいいよ。話してもいいかな?」

声を出そうと思ったけれど、眠たくて吐息になってしまう。だから頑張って、小さかったけれど頷いた。


作品名:優しい花 作家名:まちだ