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だれか姉ちゃんを止めてくれ!

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『はっはっは、それは大変だったね』
「笑い事じゃないって」
 夜。俺は部屋でタッちゃんに電話をしていた。今日起こった事の報告と、次回の対策を立てる為だ。
『ナッちゃんに関してはとにかく油断しないことだよ。正気に戻るまでは念には念を押すくらいじゃないと』
「身に染みて感じたよ。それにしてもクラスの他の人、姉ちゃんに対する危機意識が薄すぎるんじゃない?」
『いつもは僕がチョチョイと片付けてるからね。まぁ今回の件で皆の意識も変わると思うよ』
「だといいんだけどね」
 タッちゃんの余裕な態度に心底凄いと感心する。
『それと郁奈子にはちゃんと言っておくよ、石はやり過ぎだって』
「石は、って何? 今度から違う物飛んでくるじゃん!」
『まぁソレはともかく』
 ソレで片付けられ地味にテンションが下がる俺。
『ナッちゃんの「皆のLOVEになりたい」ってのは多分本気だと思うよ』
「あー、やっぱり本気なんだ」
『彼女は純粋なんだよ。良い意味でも悪い意味でもね。皆を幸せにしたいって言うのならそれはナッちゃんが心から願ってる事だと思う』
「でもそのせいで周りは迷惑してるのはどうなんだよ」
 幾ら皆幸せにするためだと言っても行動と結果が伴っていなければ意味はない。
『周囲の人は彼女ほど純粋じゃないからね』
「周りが姉ちゃんレベルで物事を考えられればこんな事にはならないってこと?」
 でもそんなことは不可能だ。
『まぁ無理だろうね』
「じゃあどうすりゃ良いんだよ」
『その為に僕らがいるんじゃないか。周りが彼女のレベルに追いつくまでは暴走したら止めればいい』
「何か姉ちゃんが世界の中心みたいな言い方じゃん」
『実際、彼女の世界では彼女が中心だからね』
 誰だってそうだ。自分の世界なら自分が中心でなければおかしい。
『ただ残念な事にここは彼女の世界じゃない。だから他の人がナッちゃんを正してあげないといけないんだよ』
「自己中ってことじゃん……」
『だから純粋なんだよ』
 これから頑張ろう、最後にそう言い残してタッちゃんは電話を切った。
 携帯を折りたたみ枕元に放り投げる。そしてそのままベッドへ横になった。
「正すっつってもね」
 正直俺には姉を止める自信が無い。
「どうしたもんかな……」
「悩みかね、少年」
「うわっ!!」
 いきなり耳元に囁かれたので思わず飛び上がってしまった。いつの間に進入したのかベッドには裸の姉ちゃんが横たわっている。
「何でいんだよ! しかも何でまた裸なんだよ!!」
 俺は掛け布団をまとめて姉へと覆い被せる。もぞもぞと蠢くと塊のてっぺんからひょっこりと顔が出てきた。まるで天むすの海老みたいだ。
「いやね、何か悩んでるみたいだったから元気付けてあげようと♪」
「だからって何で裸なんだよ……」
 天むすは手を生やすと隣をパンパンと叩く。座れということだろう。横へ腰掛ける。
「それで何悩んでたの?」
「……姉ちゃんのことだよ」
 どうせいつかは聞くことなので正直に話す事にした。
「姉ちゃん、昼に言ってたじゃんか。ある日気付いた、愛って凄いって。ある日ってのは親父達が離婚した時だよな」
 うちの両親は離婚している。理由は確か親父の仕事が上手くいってなくて、家で暴れたりして。そしたら母さんが出て行った。ずっと昔の俺がまだ保育園にも行っていなかった時の事だ。正直俺はあんまりその事を覚えていない。
「やっぱり、バレちゃったよね。あぁ~、適当に誤魔化しておけば良かった。それ、タッちゃんに言ったの?」
 そう言ってばつが悪そうに笑う。
「いや、流石にそこは話してない」
「そっか、ありがと」
「別にね、お母さんとお父さんが悪いって思ってるわけじゃないよ。ただね、お互いがもっともっと愛し合ってれば二人は別れなかったんじゃないかって思うの。愛が足りなかったのかなって」 
「だからかな。私は皆に愛を振りまいて生きようって思ったの。私が皆のことを好きでいれば、そしたらきっと幸せでいっぱいになるって。そんな単純な理由よ」
 姉ちゃんが微笑む顔を見て何とも言えない気分になる。――その考えは理想にすぎない。
「そう思うのなら周りの人に迷惑をかけるのは止めろよな」
「あはは。いっつも上手くいかないんだよね。気付いたら暴走って言うのかな。目の前しか見えなくて。いい加減普通に落ち着いた方が良いのかな?」
「……大丈夫。俺、次はちゃんと止めるから」
 思わず口から言葉が溢れた。その言葉に姉ちゃんは目を丸くする。
「どしたの急に?」
「タッちゃんがな、姉ちゃんが暴走した時は俺らで止めようって。それに姉ちゃんが周りの事幸せにしたいと思うなら、その気持ちは抑えつけるべきじゃないと思う。だから姉ちゃんは今のままで良いと思う」
 恥ずかしい事を言っていると自分でもわかる。だから敢えて顔は合わせない。
「……わかった。そこだけは甘えさせて貰うね」
 そう言うとコテンと横になる。
「でも出来ればあまり迷惑はかけないでくれよ。いくら俺たちが止めるって言ってもトラブルは無い方が良いんだから」
 と俺は言う。すると姉ちゃんはこう返事をした。
「……ブヒッ。すーすー」
 ――寝てた。何なんだよこの人は。