だれか姉ちゃんを止めてくれ!
「第一棗さんは……」
帰り道でも郁奈子の説教が続いていた。やれ人に迷惑をかけるなだの、やれ我慢というものを覚えろだのと至極当たり前の事を言っている。
「男女問わず襲いかかるのも大問題ですよ、やめてください。ちょっと、聞いてます?」「……プヒー」
まるで鳥の嘴の様に口を尖らして……鳴いた。
「……聞いてなかったな」
「あぁぁ、ムカツク! ちょっと棗さん!」
「悪いけどそればっかりはいくら郁奈子ちゃんのお願いでも聞けないわ」
急に真面目な顔で話し始める姉。いつもふざけてばかりいるからその様子があまりにも異様に思えた。
「私はね皆とLOVEな関係になりたいんだよ」
「「……はぁ?」」
何を言い出すんだこの人は。怪訝な表情の俺達など気にせず姉ちゃんは続けた。
「ある日気付いたんだ。愛って凄いなって。好きになった方も好きになられた方も幸せになれるんだよ」
「だからいつもあんな騒ぎを起こしてるんですか?」
馬鹿馬鹿しい、と一蹴する郁奈子。そんな手厳しい反応に姉ちゃんは苦笑いを浮かべる。
「そう言わないでよ。こんな馬鹿げた事でも私にとっては一応大切なことなんだから」
「それに私だって見境無しに襲ってるって訳じゃないのよ。既に好きな人がいたりする相手には手は出さないって決めてるの」
そう言い切ると胸を張る。なるほど、手当たり次第に襲っているように見えたがそうではなかったと言うことか。
「どうだか。第一好きな人がいるかなんて他人にわかるわけ無いじゃないですか」
「あら、こう見えてもお姉ちゃんのレーダーは高性能なんだから。その証拠に郁奈子ちゃんに襲いかかることはないでしょ」
パチリ、とウィンクを一つ。
「な、ななな、なな何言ってるんですかぁぁ!!」
郁奈子の顔が真っ赤に染まり明らかに同様している。手にした鞄を振り回して我が姉を追いかけ回す。わかりやすいヤツだ。
「え、何。好きな人いんの?」
「うっさい、死ね!!」
「あぶねっ!!」
鬼のような形相でそこら辺に落ちていた石(こぶし大)を投げつけてきた。当たってたら無事では済まんぞ。
「お前、当たってたらどうするつもりなんだよ! 殺す気か!」
「だから死ねって言ったでしょ!!」
ついさっきまで姉ちゃんに怒ってたのに、いきなり俺に向かってキレられた。何コレ若者コワイ。
「あぁ、もう! 帰るわよ!」
ひとしきり暴れた後、まだ不満そうな様子でさっさと先に行ってしまった。
そんな郁奈子を俺と姉ちゃんは追いかける。
「いやはや、涼君は罪な男だね」
ニヤニヤ笑いながら俺にだけ聞こえる様に囁く。全く、元はと言えばそっちが原因のくせに。だけど俺はそれを声に出して言うことはなかった。
それは姉の考え、その理由に思うところがあったから――だと思う。
作品名:だれか姉ちゃんを止めてくれ! 作家名:大場雪尋