薊色花伝
2.薊堂のおしごと
「普段はどんな仕事をしていたの?」
控え目に来客用のソファに腰掛けて、事務机で何か書き物をしているのを見守る。応接室に入ってすぐ、脇に添えられた机に向かう姿は役人付きの秘書みたいだった。事実、あたしが社長だとするとこの青年は雑務兼助手兼第一秘書というところなのだろうけど。
「色々だよ。悩み相談とか失せ物探しとか。素性調査のようなあまりに探偵業っぽいことまでは請け負っていないけれど。『馨さん』が辞めてからは先代経由で来た依頼をたまに受けるくらいだったかな」
「悩み相談って、本当に来るの」
「来るよ。余所では中々言えないことだから、わざわざ遠くから足を運ぶ人も結構居たね」
ふーん、と適当に相槌を打って、ソファの上に寝転がる。見上げた天井のシャンデリアがきらきらと輝いている。
「それじゃあ本当なんだ。おじいちゃんも妙な仕事をしてたものね。まさか、『妖怪退治』なんて」
『薊堂は狐憑き』。
ここに来る前に父親があたしに吹き込んだ言葉だ。てっきりこの会社を毛嫌いした果ての出任せだと思っていたのだけれど、どうやらそうでもないらしい。
「妖怪退治だなんて、人聞きが悪いね。霊障相談と言ってくれないかな」
視界の端に常葉の苦笑する様子が見えた。何に苦笑したのかは定かじゃない。あたしはちらりと彼を仰ぎ見ながら、構わずに続けた。
「摩訶不思議なものを解決するんだから、どっちだって同じでしょ」
「不思議なもの、か。キミは信じてるほうなの?」
興味の強い視線を感じて顔を向ける。彼は手を止めてこちらの様子を窺っていた。
「信じてるとか、そんな――」
ふと、階下で呼び鈴が鳴る。
あたしが反応する前に、助手は慣れた様子で立ち上がった。