薊色花伝
* * *
慌てて顔を上げる。知らないうちに時計が2時を差していた。
不味い、また転寝してしまった。眠いのは春のせいか、なれない環境のせいか。それよりは、慣れないバイトのせい?
意識が無かったのはおそらくたった数分のことだけれど、紅茶で一息ついていた客間には既にあたし一人。
「常葉……?」
一体どこに、と疑問を浮かべる前に、テーブルの上に残されたメモに気が付いた。
“2時半から鏡探し再開”
カップやお茶請けがなくなっているのを見ると、片付けに席を立ったのだろう。もしかしたら皿洗いでも手伝っているのかもしれない。少し時間に余裕があるのは、あたしが眠っているのに気づいて気遣ってくれたのかも。柱時計の振り子の音が心音のように室内に響いている。
あたしは暫くぼんやりとしていたけれど、軽く頭を振って、思い立って立ち上がる。
待っているより、少しでも早く探し始めた方が効率がいい筈だ。伊瀬さんに頼んで蔵を開けて貰おう。
決断すれば行動の早い性質なので、ボールペンを取り出してメモにぐりぐり手を加えると、助手の帰りを待たずに客間を後にした。
“2時■から鏡探し再開!!”
別に、読んでもらわなくてもいいんだけど。