薊色花伝
カップを覗き込めば、憂いの滲んだ自分の顔がうっすらと映っていた。それに思わず苦笑する。
少なくとも一週間前までは、こんな感覚は持ち合わせていなかった。
目に見えないものを確かなものと認識し、間接的に掻き集めた誰かの願いの成就を祈る。果てしない、儚い願いだとしても。
本当は、もっと早くから学ばなければならないことだったのかもしれない。いつしか尊敬するようになった祖父の背中を追うならば。父親には伝えられることの無かった意識、父親の拒んだ道だ。
この仕事を続ければ、この感覚はもっと深いものになるだろうか。
もっと確かなものに、そして、それを叶えるための力を持つことは出来るだろうか。
――常葉に聞いてしまえば早いのだけれど。
見込みがあっても無くても、それを断言されるのが怖いから、今は黙っておく。
だから、あたしは言い直す。
「見つけましょう。鏡を」
声は聞こえなかった。けれど、助手の頷く気配が視界の端に映った。