薊色花伝
天井にはシャンデリア、ビロードのカーテン。足元の絨毯は何処製なのか。薊堂よりは数倍お金がかかっているんだろう。もしかしたらこの白磁のカップも高級なのかもしれないけれど、それを考え始めたら紅茶の味がしなくなるのでやめておく。
「見つかるといいわね、鏡」
休憩がてら紅茶をいただきながら、ふっと言葉を零した。勧められた昼食を丁重にお断りして、せめてもと用意されたものだった。
右隣に席をとった常葉が、ちらりと首を傾げる。
「見つかるさ」
相変わらず不安のひとかけらもない言い様だ。二日にもなればすっかり慣れてしまって、溜め息を吐く気にもなれない。
「――返して、って言ってたのよ」
紅茶の穏やかさと共に、ふうっと息を吐きながら呟く。頬の辺りに常葉の視線を感じる。
「でも、今考えたら、助けてって意味だったのかもしれない」
返して。
見つけ出して。
力の弱まってしまった魂。重い身体を引き摺って、満月の夜に彷徨う女性の姿が脳裏に過ぎる。地に面した場所から薄れて、闇に溶け出す彼女の姿。それがいつの間にか、あの闇の中に紛れた自分の姿と重なる。
掻き消えて、無に還る目前。逃れられないと知りながら、叫ぶしかない。
あたしには出口があった。けれどきっと、彼女達にはそれがない。
助ける術はあるの?助けてあげたい。せめて、二つを近づけて上げられれば。そんな思いがいつしか深くなっていた。