薊色花伝
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晴れ渡った空に真っ白な月と、草原。
若いススキに覆われた大地の上にあたしは立っている。
振り向けば背後には小さな祠。頬に当たる風。
そして空を翔る青色の炎。
あの色をあたしは幼い頃から知っている。幼い頃に一度だけ、あれに近付いたことがあった。ううん。触れたことがあった。その影を見つめながら息を飲む。
どうして忘れていたんだろう。あれは、 だ。
あたしを助けてくれた色。助けられたのは、きっと二度目。
そうでしょう?おじいちゃん。
今度会ったらお礼を言わなきゃ。そう思うけれど、きっと、目が覚めれば覚えていられない。
だからいつか、思い出す瞬間が来たら。あのひとに。
『ねぇ。あなたは、あのときの』。
青色の炎。灰色の空。
その中にふと真っ白な獣が現れて、あたしはそれをただ黙って見上げていた。
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