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薊色花伝

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4.社に待つもの


 社は裏の小山の上にある。
 伊瀬さんの後ろを付いていくとはいえ、道は辛うじて切り開かれているばかりで獣道に近い。足元はいつ整えられたのか分からない石段で、所々風化しているために何度も足をとられそうになる。

 二百メートル程上ったところで鳥居が目に入った。奥には小さいながら切妻屋根の立派な社。木々に隠れるようにして立っていたそれは、今も静かに息をしているように見えた。
 「うちのより大きいわね」思わず呟くと、すぐ横から「失礼な」と返された。「え?」顔を上げるけれど常葉は知らないふり。どこかばつが悪そうに見える。
 そんな遣り取りをよそに伊瀬さんが口を開く。

「元々は土地神で、ああした石洞があるだけだったようです。しかし地盤が緩んだらしく」
 指し示した裏手にはまるで社の影のように洞穴があった。注連縄が巡らせてあるものの、入り口はすっかり崩れてしまって入れそうにない。
「それをあなた方の先祖が奉り直したのですね」
 刀は元々洞の中に納められていたものを社に奉ったものだという。しかし数代前の主が修繕の際に魅入られてしまい、以降は屋敷の中に留め置くようになったのだと。彼の没後も返されることなく蔵の奥に仕舞われていたらしい。
「――そして再び、祖父によって発見されたのがつい十数年前です」
「何故、発見した際に還さなかったのですか」
「それが……」

 伊瀬さんは少し困惑したように社に近付き、正面の観音扉を開いた。
 いや、正しくは開こうとした。けれど、どうやら押しても引いても木目すらびくともしない。
「この通り、開けることが出来ません」
 確かめるように常葉もまた手をかける。頑丈そうではあるが、地盤と共に歪んでしまっているのだろうと伊瀬さんが付け加える。
「さすがに壊すわけには行きませんし」

 優秀な社員は暫く扉に臨んでいたが、やがて社の周囲を見て回り始めた。
 あたしも彼を真似てあちこち目をやる。見た感じでは普通の小祠だ。表には賽銭箱、ぐるりと囲うように玉垣。屋根も綺麗な漆塗りで、漆黒が太陽を反射している。
 と、常葉が表情を硬くする。

「ここに鐘か鏡がかかっていませんでしたか」
 賽銭箱の設けられた軒下、妻の内側を指差しながら尋ねた。確かに社によっては鈴ではなく鐘…鰐口が下げられていることがある。だとしても、鏡ってどういうことだろう?
「どうでしょうか…私も幼少から手伝いをしていますが、見たことはありませんね」
 伊瀬さんは記憶を手繰るようにして首を捻った。

「祖父に尋ねれば知っているかもしれません。でなければ、蔵を探せばあるいは。確認しましょうか?」

「お願いします」

 相変わらず彼の判断に迷いはない。
作品名:薊色花伝 作家名:篠宮あさと