薊色花伝
依頼先は郊外の森奥にひっそり佇む洋館だという。
根を詰めたような依頼主の男性と常葉との遣り取りを見守って、静寂の戻った執務室で彼に聞いた。
仕事の内容は、実際に足を運ばなければならないもの――つまり、こちらに運ぶことが出来ないものの鑑定。約束は明後日に取り付けていたけれど、それをどうするか、という確認があたしには向けられない。
「あたしも行く」
「僕だけで大丈夫だよ。それに、キミじゃ危ないよ」
白磁の茶器を片付けながら常葉が愛想笑った。片手間で流された言葉に思わずむっとする。
こういうときに身に浸みて理解するのだ。常葉はあたしを信用していない。
彼はあたしを社長として、或いは社長見習いとして此処に受け入れた訳じゃない。ただ単に子守か何かのつもりで一時的に預かっているとか、その程度の気持ちでしかない。
それが悔しいし、情けない。
どうせあたしは子供で、頼りになんてならない。最初から頭数にも入っていないんだ。
だから。
「言っておくけど、あたしだっておじいちゃんと同じ血が流れてるのよ」
立ち上がって、彼が下げようとしていたクッキーを一枚奪う。それによってやっと、注意をこちらに向けることに成功する。
面食らったように肩ごしにあたしを見る。表情の分からない無表情がいっそ心地良かった。
「それに、今はあたしが薊堂の社長なの。ついて行かないでどうするの」
虚勢のつもりは無かった。認められたいわけでもない。ただ、あたしの上を視線がすり抜けるのだけは嫌だった。
常葉の瞳があたしを見定めるように一透き通ったように、見えた。