弓ちゃん、恋をする
そしてそれとはまた別に、弓ちゃんはさらにきれいになっていった。弓ちゃんといっしょに過ごしている星也にはそれがはっきりと見てとれた。学校では弓ちゃんに言い寄ってくる男の子が何人かいるみたいだったけれど、もちろんそれは弓ちゃんを苛立たせるだけだった。弓ちゃんのきれいさは男の子たちに向けられているのではなくて、自分自身に向けられているからだ。それは弓ちゃん自身のためのものなのだ。弓ちゃんは自分に近寄ってくる男の子がいかにろくでもない人間であるかということを何度も星也に言って聞かせた。星也は多少後ろめたい気分でそういった話を聞いていた。ラヴレターをもらったりすると、星也にも手伝わせて中の便箋を一枚一枚細切れに破って捨てた。文面に目をとおしたことなんて一度もなかった。そのようにして、弓ちゃんに向けてつづられた何人かの男の子の思いは、弓ちゃんの目の届かないところへ無理やり押しやられ、たぶん最終的にはどこかで文字どおり焼き捨てられることになった。それが何回か繰り返された。どうやら弓ちゃんは男の子という生き物を生理的なレヴェルで嫌悪しているみたいだった。ラヴレターの差出人の心を思うと星也はいささか胸が痛んだ。でももちろんそんな弓ちゃんのやり方に口を出すのが無駄だということはわかりきっていた。しかたがない。ただそれだけだった。
しかしそんな弓ちゃんの三つ子の魂でさえ、百歳まではもたなかった。弓ちゃんはずっと頑なに自分のやり方を守りとおすんだろうな、と星也は半ばあきらめたように思っていたので、これはまずまず驚くべき事態だった。それはある冬のことだった。弓ちゃんは一七歳で、きれいな女の子だった。記録的な量の降雪があった記録的に寒い冬だった。そしてそれと同じくらい記録的なことが弓ちゃんに起こった。弓ちゃんは恋をしたのだ。
§§§