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弓ちゃん、恋をする

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「三つ子の魂百までって言葉だってあるんだから。あのまま大人になって社会に出たりしたらと思うとちょっと気が気じゃないのよ。あなたそういうこと考えてみたことあるの?」
「うん、ぼくもちょっと心がけておくことにするから」とお父さんは言った。そしてビールのおかわりを頼んだ。
 星也は部屋に戻ったあとで辞書を開いて「三つ子の魂百まで」という言葉の意味を調べてみた。幼いころの性格は年をとっても変わらないものだ、というのがその意味だった。なるほどな、と星也は思った。

§§§

 森を歩いているときに、弓ちゃんはよく友達の悪口を言った。多くはクラスの男の子の悪口だった。
「とにかく、あいつはやな奴よ」と弓ちゃんは言った。「大馬鹿者よ」、そして星也のほうを振り返った。「星也はあんなくだらない男にならないようにするのよ」。弓ちゃんは『馬鹿』という言葉を口癖のようにつかった。
 もちろんまだ小学一年生の星也には弓ちゃんの言う「くだらない男」がいったいどんなものなのかわからなかった。でも弓ちゃんは星也と森を散歩するときには決まってそういった「くだらない男」の話を持ち出した。だからそのたびに星也は黙ってうなずいておいた。そうすると弓ちゃんは少しばかり満足した様子で星也の手をとって早足で歩いた。
 入り口から一五分ほど歩いたあたりには「三本杉」と呼ばれているところがあって、二人はよくそこまで歩いた。お母さんからは三本杉より奥へ入ってはだめだと言われていたので、そこが星也にとっても弓ちゃんにとっても森の最深部だった。道の両側がゆったりとふくらんでちょっとした広場のようになっていて、真ん中に大きな杉の樹が文字どおり三本構えていた。三本杉の向こうに何があるのか、その先の道がいったいどこへ続いているのかはわからなかった。
作品名:弓ちゃん、恋をする 作家名:おいら