弓ちゃん、恋をする
二人で森に来たのは久しぶりだな、と星也は思った。そもそも、二人でいっしょに長い時間を過ごしたこと自体がひどく久しぶりだった。それはきっと、弓ちゃんが恋をしているからだ。恋をするというのは、いったいどういうことなんだろう、と星也は思った。でももちろん恋をしたことのない星也にはそんなことはわかるはずがなかった。そのことについて弓ちゃんに訊いてみたかったけれど、それが弓ちゃんを不愉快にさせるだけだということも星也にはよくわかっていた。
一〇分くらいあとで星也がそっと目を開けると、弓ちゃんは目を閉じたまま寝入ってしまっていた。こんなに寒いところで眠れるのはちょっと信じがたいことだったけれど、弓ちゃんは気持ちよさそうに静かに寝息をたてていた。そのかすかな呼吸にあわせて、弓ちゃんの胸がゆっくりと小さく上下した。
星也は身体を起こして弓ちゃんの寝顔をじっと見つめてみた。弓ちゃんの目と、鼻と、唇と、耳を見つめた。弓ちゃんの丸いほっぺたを見つめた。唇の三センチ左にある、小さなほくろを見つめた。弓ちゃんの長い睫毛が身体のほんの少しの動きに呼応してちらちらと揺れた。そして今さらのように、弓ちゃんはとてもきれいだと思った。その思いは星也を少し混乱させた。