ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう)
私がとりわけ心を打たれたのは、「やっちゃん」が言語操作技能検定協会会長であることを、誰にも見せびらかさないことだ。爺ちゃんと飲んでる時も「力」をセーブして周囲との調和を乱さない。周りの人たちも気を使ってか話題にも出さない。まるでどこにでもいる平凡なおじいちゃんをてきとうにあしらうような扱い方をする。「やっちゃん」くらいの人と付き合うともなると、あからさまな敬意の表現は失礼極まりないからだ。母さんはよく「やすしさんはまだ帰らないのだろうか。私は、早く夕飯の支度をしたいのだが……」という意味の「もうすぐ五時だね」を台所で電子レンジをのぞきながらこっそり呟く。電子レンジではラップされたじゃがいもや凍った挽き肉の塊が無言で静かに回る。turning lapped potato. 冷凍着挽肉的塊。Président de société de l'autorisation de la compétence de l'opération de la langue.
作品名:ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう) 作家名:早稲田文芸会