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早稲田文芸会
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ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう)

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「やっちゃん」は私とサッカーをするために爺ちゃんに会いに来た。サッカーというのは、みんなで力を合わせて足で球を網に乱暴に蹴り入れる大人の遊びだ。2組の11人が身体能力と計算力の優劣を争い、12人目以降が財布のゆとりと声の大きさを争うゲーム。言語操作技能検定試験の規則にも通じるところがある。試験は大きさを決められた小さな函館みたいなところで実施される。じゃない。函館ではなくて、箱庭だ。この文脈でならどっちも同じ機能で動作するだろうから、気にしなくてよかったかもしれなかったけど、「函館」を「箱庭」とすることによって、次のパスが繋がる選択肢が増える。
 パスというのはネットワーク用語で言う「小道」のことでも、サッカー用語で言う「得点源の受け渡し」のことでもある。「  」から跳躍し得る距離と方位が変わるということだ。
飛躍可能性と連想可能性が一定条件下で変動するというわけ。
もう少しわかりやすく言えば、次の一文がどうなるかが、ちょっと変わる、ということ。試験は大きさを決められた小さな箱庭みたいなところで実施される。サッカーに似て、試合は選手にとっては人生そのものだが観客にとっては生活の一部で、近隣住民にとっては迷惑と商売の種、国際機関には野球や相撲との違いがいまひとつわからない。近づいて見れば生涯を費やすに足る巨大な娯楽施設、遠ざかって見ればどこにでもある小さなお店。「誰でもよかった」とは衝動的無差別殺傷事件関連問題常套句集中最頻出構文だけど、定石を無視している限り試合開始序盤の数手なんてまじで「なんでもいい」。「やりがい」が生まれるのは常にゲーム中盤以降であって、「たら・れば」は試合終了後にしか呟かれない。
「次に誰にパスするかいっつも考えとけよ」と「やっちゃん」は言う。リフティングが上手い。ボールなんてどこにも存在してないかのようだ。まだ足が小さくてボールを強く蹴れなかった私に、浮き球を放る合図を送ってくる。(撃ってごらん)と壁を見やる。ボールが来る。空振りする私。