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とある少女が世界を嘲笑した日

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貴方はもうすぐ死にます、と言われたある少女がいた。

普通は取り乱すであろうその真実を告げられた少女は、ニヤ、と笑って医者の方へと身を乗り出す。


「へぇ、あたし、死ぬの」

「え、えぇ」


驚いた様に初老の医師がイスごと身を引く。

普通は泣き叫ぶ、呆然とする、気絶するのこの三つが定石なのだが。

初老の医師は老眼による近視でカルテがよく見えず、眼鏡を押し上げた。


「もってあと、二ヶ月ほどかと・・・」


末期のガン。

治癒する事は不可能な、身を蝕む悪魔。

それにちっとも怯えた様子がない現役女子高生を初老の医師は眼鏡を掛け直しながら見つめた。

ただ、非常にやるせなかった。


「そっかぁ、あたし死ぬんだ。ウザい先生も、めんどくさいガッコーももうすぐ行かなくて良くなるんだ?あはっ!役得じゃない?悲劇の女子高生、ガンにより美しく散る、なんてさぁ!」

「・・・・・・」


強がりなのだろうか、とも思った。

ただ、初老の医師は非常にやるせなかった。

己の歳の何割かしか生きていない彼女が死ぬことが。

順当に行けば、医師の方が先に召されただろうに。

ただ、分厚い眼鏡越しに見える彼女が哀れでならなかった。

初老の医師の目には、彼女が世界と己とを嘲笑っているようにしか見えなかったのである。





彼女はその後も、何故か学校に通い続けた。

両親が彼女に理由を訊ねると、唇に笑みを浮かべてこう返すのだった。


「行きたいからよ。悪い?」


両親はその旨を学校に伝えようとしたが、少女は悪戯っぽく笑み、こう脅した。


「がっこーに伝えたら、ガンで死ぬ前に電車に飛び込んじゃおうかなー?」


両親はその言葉が本当かどうかはわからなかったが、今の少女の情緒は不安定である事を重々承知していた為に、学校には伝えない事にした。


少女は学校に通い続けた。

時々授業をサボり、学校を抜け出し、気紛れにピアスを開け、髪を染めた。


いつも通りに彼女は生きた。

特別何をするわけでも無く、彼女は日常を無関心に過ごして行く。

ある日、少女の宣告された寿命が一ヶ月を切った頃の事だった。


廊下をすれ違った、強面の教師が持っていた指示棒で床を音高く叩いた。


「おい、止まれそこの阿呆!」

「なぁにセンセー?」


少女はくるりと振り向く。