王の帰る日
――炎のように煌く金の瞳が、情けなく立ちすくむ男の姿を映す。
猫に似た瞳がゆっくりと細められ、明確な笑みの形に変わる様を、男はただ黙って見つめていた。
「私はお前を信じているよ。だからお前ももう少し自分を信じてくれ」
「……っ」
「大丈夫だ。私がいなくても、お前が居る。真の王がいる。騎士団が、魔道士団が、医術士団がいる。国の外にだって頼もしい友人達が沢山いる。この国は本当にほんとうに、素晴らしい人達に支えられた素晴らしい国だ。そうだろう?」
だから安心して帰れるのだと、女王の役目を負わされた娘は軽やかに笑う。
男に返せた物は情けない沈黙だけだった。
確かに彼は、女王の口から「お前を信じている」と言って欲しいと願い続けてきた。
なのに、いざ言われてみると喜びよりも虚しさの方が勝っている。どうしてなのかと考えて、そこで男はようやく気がついた。
信頼の言葉は――後を託す言葉は、別れの言葉にほかならないのだと。
「――……」
何も言えず、途方にくれて立ち止まる男に女王は苦笑する。
かつてこの手を引き、国を守る為に空っぽの玉座へ娘を押し上げた張本人が、何を今更迷うのだと、そう言いたげな顔だった。
「私の、陛下」
喉奥から漸う絞り出した声の弱さに、男は自己嫌悪に陥る。
けれど何も言わないでいるよりはずっとマシだと思った。
もう、この娘と過ごせる時間は僅かしか残されていないのだから。