王の帰る日
「貴女様は今や我が国の象徴です」
「阿呆抜かせ。私はお飾りの女王で、本当の王は別にいると暴露してから何月経ったと思ってる?」
「確かにこの国の真の王は、記憶と力とを受け継ぐ精霊です。ですが、この国の統治者は貴女だ」
「軍務ならともかく、政務なぞまともに関わった覚えがないぞ」
「それは貴方がお逃げになるからでしょう!」
「素人が付け焼刃で政治に首を突っ込んでもろくなことにならん、と政務官に口を酸っぱくして言われたからな。軌道修正が必要な時以外は何もするな、という先達の有難い忠告に従ったまでだ」
「……なんですって?」
「知らなかったのか? ああ……だからあんなにムキになって追いかけて来ていたんだな」
納得した、とからから笑って女王は歩き続ける。
女王の歩みはいつだって速い。背丈で言えば自分の方が遙かにある筈なのに、気を抜くとすぐ置いていかれそうになる。
それが、いつだって怖かった。
そんな男の気持ちなど知らぬげに、女王は笑いながら長い長い廊下を歩いていく。
「我らが宰相殿は変な所で抜けているなあ」
「貴女に言われたくありません」
「それは失礼した」
「陛下!」
「……あのな、我が宰相殿」
みっともない怒鳴り声に、静かな声が返される。
女王はここにきて初めて足を止め、そして振り向いた。