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遠くて近い、狭くて広い家

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本当に十年前の紗英なのだろうかと今更ながらの疑問が湧く、確かに十年前、紗英の母親の葬式の時も紗英は感情を抑えて誰に対しても決然とした態度で弔問客に接していた。
「お母さん、苦しまなかったんだよね?」
「ええ」
二十五歳の紗英は遠いところを見るような視線から靖孝を見る。あの時、紗英の母の最期を看取ったのは靖孝も一緒だった。

「紗英姉買い物帰り?」
街外れで紗英を見かけた靖孝が買い物袋を抱え込んだ紗英に走り寄っていく。
「ああヤス君、ちょっと持ってくれる?」
うんと素直に靖孝は紗英が抱えていた大きな荷物を全部持つ。
「一つで良いのよ」
「だってここまで一人で持ってたんでしょ?」
落としそうになりながらも、中学生の靖孝は一生懸命手伝おうとする。
「いいよ一つで」
「でも・・・・・・」
「卵も入ってるから、大丈夫」
そういってスーパーの手提げ袋を紗英は持つ。
「ありがとう」
咄嗟に靖孝は大きな紙袋で顔を隠す。
紗英の家は街の外れにあるのでけっこう歩く。
「紗英姉自転車は?」
「パンクなおらなくって」
「言ってくれれば空気入れ持って行ったのに」
「電話代勿体ないでしょ?」
夕暮れの道を二人で並びながら家に帰る。
「今日は沢山買い物したんだね?」
「うん、ちょっとねお母さん具合が良くなくて、買い物サボってたから大変」
「買い物くらい僕が行くよ」
靖孝は紗英姉はもう少し自分を頼っても良いと思った。電話なんかしなくても、買い物を頼まれれば靖孝直ぐに飛んでいく。
靖孝は中学生になってから紗英にベッタリだった。
靖孝が同じ中学校に通うことになって、三年生で部長の紗英と靖孝の二人だけの美術部をやっていた頃からの仲。
まともにデッサンもした事のない靖孝に取って、紗英の絵は魔法の様に見えた。以来ずっと紗英から絵の手ほどきを受け、今も時々靖孝は紗英に絵を見てもらっていた。
「大事な弟子を小姓に使うわけには行かないでしょ?」
「弟子なんだから、先生の身の回りを手伝うのは当たり前だよ」
「可愛いこと言っちゃって、後が大変だよ?」
「どうして?」
「私は甘えん坊だから、一度甘えるときりがないの」