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遠くて近い、狭くて広い家

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「へえ、やぱっり立派な家に住んでいるとそういうことに興味持つのかな?」
「そういう分けじゃないけど、住宅の設計ができるようになりたいなあって、この家みたいな」
「こんな古い家を作りたいの?」
「コンクリートとガラスだけの建物は味気ないかな、僕は紗英姉のこの家の方が自分の家より好きだな」
「変わってるわねヤス君は」
誉めて貰っても紗英はあまり嬉しそうではなかった。
「私はこの十年感の出来事で一番驚いたのはヤス君が海外留学していた事かな?」
「えっ?」
「だって勉強するだけでも大変なのに、海外まで行ってするんだから凄いよ」
肩を寄せて目を輝かせる十五歳の紗英から目を離して今の紗英の方を見る。気にせずにゆっくりお茶を飲んでいた。
「私と違ってヤス君は立派な大人になったは」
湯飲みを置いて紗英は微笑む。
「ほんとにそうだよ、まさか十年立っても私は自分がこの家に住んでいるとは思わなかった、絶対この家を出て別の所で一人暮らしをしてると思ったのに」
昔から紗英の口癖だった。何時か家を、この土地を出て外で暮らしてみたいと。
「努力はしてみた」
「本当に?  だってヤス君に家のカギを渡してずっと掃除させてたんでしょ?」
辛辣に若い紗英は逃げ道だと非難した。
「いや、僕が勝手にやってただけだよ」
紗英が家を出るときに靖孝に家のカギを渡すのが習慣になっていた。
「お母さんのお供え物とかヤス君にやらせるなんてね」
靖孝がハッとすると、少女は不思議そうな顔をする。
「どしたの?」
「知ってたの?」
「うん、私に聞いた」
居間にある仏壇を指差す。お供えモノが置かれた小さな仏壇を。
「お母さん、あまりもたなかったのね」
十五歳の紗英が制服を摘むように持つ。
「学校の制服姿、あまり見せられなかったね」
母親は紗英が高校一年生の時に亡くなった。夏になる前に静かにこの家で息を引き取ったのだ。
「ねえ十年目の世界で一番驚いたのはお母さんの事じゃなかったの?」
恐る恐る靖孝が訪ねると、十五歳の紗英はどうしてと首を傾げた。
「お医者様にはそんなに長くないって言われてたから、最初にお仏壇見た時妙にすんなり納得できたよ」
屈託の無い笑顔。
靖孝は正直戸惑った。
母の死を知っても動揺一つしない彼女。