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遠くて近い、狭くて広い家

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靖孝には紗英が甘えん坊には見えなかった。病気の母親と二人で暮らしているので掃除洗濯はもちろん、身の回りの全てをあの古い家で、一人で賄っている。それが周りの女の子より背の高い紗英を一層大人びて見せた。
そこに惹かれている自分に靖孝は薄々気がついていたが、まだそれを絵のためと思い込んで必死にそんな憧れを抑えていた。だから買い物でもなんでも使ってくれた方が気が収まったのだ。
「良い匂いだ」
靖孝は抱えた紙袋から溢れた匂いに釣られた。
「ヤス君、ちょっと寄っていこうか?」
少し紗英の家とは違う方向へと歩くと直ぐに二車線の道路に出た。信号を曲がると大きな橋が見え、緑の鉄骨のアーチが夕日を浴びていた。
紗英と靖孝が住む街に流れる川には橋が二つ架かっていた。一つは開通したばかりの市街に繋がる大きなコンクリート製の橋。もう一つがこの古い鉄製のアーチ橋。新しい橋のおかげですっかり車は通らなくなった。
狭い歩道部分、橋を中程まで進むと、紗英は足を止めて荷物を胸の高さ程の錆びた手すりの上に乗せる。
「紗英姉」
靖孝が指す方向には紗英の家が見えた。
正確にはその生け垣と瓦の屋根と大きな木、高台の平らに造成された土地の端っこに小さな家が見える。
「小さいね」
紗英はこの橋から見える家が好きなのだ。靖孝は見せて貰った紗英のスケッチに、頻繁にこの風景が登場する事を知っている。
もっとも紗英のスケッチは殆ど家の庭の風景だったりする。
母が病気のためあまり家を出ることが出来ない。
テレビもない古い家。母親が嫌いらしい。
だから他にすることが無いのか、紗英の暇つぶしは縁側に座って病床の母を背にして庭の風景を描くことだった。
「ヤス君」
靖孝から紙袋を受け取る。仲から小さな紙袋を取り出すとさっきの油の匂いがした。
総菜屋の鳥の唐揚げが中に入っていた。
紗英は一つ摘むとそのまま口に入れる。
もう一つ取り出すと、今度は靖孝の口へと運ぶ。
「えっ?」
「口開けて」
言われるがまま口を開けると、紗英はそのまま靖孝の口に唐揚げを放り込む。
「美味しい?」
靖孝は口を動かしながら呆気にとられた。気がつくと顔を真っ赤にしていた。
「あれ熱かった?」
別にと靖孝は慌てて首を振る。