小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遠くて近い、狭くて広い家

INDEX|6ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

「そんな気は無いんだけど、お母さんの服とか着ちゃったらそうも言っていられないね」
この小さな家のモノは全部、母から紗英に引き継がられた。
「だからなのかしら、あの子が出てきた理由も?」
「なに?」
フフと嬉しそうに紗英は家の中に声を掛けた。
「ねえ、ちょっと来て」
返事は無いが板張りの廊下を歩く音が聞こえた。
「えっ?」
声を挙げたのは靖孝だった。
「誰?」
制服を着た女の子が紗英の後ろから顔を出す。
紗英と同じくらいの背の高さ、線の細さが若さを感じさせる。
「ヤス君よ」
「ええ、嘘だ」
大きなお声で驚くと女の子は突っかけに足を掛けて、玄関から出るとマジマジと靖孝の顔を覗き込む。
「コレが十年後のヤス君なの?」
珍しい花でも見るように、そっと触らないようにしながらもギリギリに近づく。
自分よりも背が高く、品の良いシャツ纏う育ちの良さそうな青年を見定める。
「へえ~なるほど、そう言えば面影あるね」
「そうでしょ、変わったんだけどモトの部分は変わってないでしょ?」
「そうだね、モトは一緒だね」
嬉しそうにクルクルと回る女の子は背中に手を回したまま靖孝をまた品定めする。
「紗英姉この子は?」
きょとん。
そんな音が聞こえた。
「うーん」
わざとらしく顔に手をやる。奥歯に物が詰まった様な顔。
「分からない?」
制服の女の子は胸を張りながら顔を指差す。
「毎日、毎日、私に付いて歩いてた癖に私の顔忘れたの?」
短髪の女の子は額にかかった前髪を避けて、顔全体を靖孝に見せる。
瞬間、靖孝は十年前の絵が浮かぶ。
この家で見た絵。
土手を登り、生け垣に挟まれた門を潜る。
そのまま玄関を上がらずに、年季の入った楡の木と家の間を通って庭に出る。
そこにはいつものように縁側に座ってスケッチブックを傾ける紗英が居た。
靖孝に気がつくと何時も満面の笑顔で迎えてくれた。
幼い頃、そんな笑顔が全てだった時期。
時と共に色あせるどころか鮮明さをます絵がある。知らないうちに美化される絵の類があることを靖孝も知る歳になった。
けど目の前の笑顔は違う。
色褪せない笑顔、何時までも大事にしたかったもの。それがそのまま今は見下ろす高さにあって靖孝は混乱した。
紗英には姉妹は居ない。
それどころか親族も殆ど居ないのだ、だから留守中に靖孝が家を預かることにもなった。