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遠くて近い、狭くて広い家

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妹島紗英が人並みに美人であったというのも付きまとっていた理由の重要な部分だが、それ以上大きかったのは妹島紗英の家だった。
古い家だが作りはしっかりとしている平屋建て、無駄に大きな家に住んでいた靖孝には小さくまとまっている所が不思議で面白かった。
全てが手の届く所に置いてある間隔というべきか、玄関から居間へ、居間から縁側へと簡単に行き来ができる。
ミニチュアみたいな間取りが何とも面白かったが、住んでいる紗英に聞くとモノを置く場所がないから、モノが買えない貧乏な人が住むには適した家だと皮肉を言っていた。
玄関の前には石の階段が十段ほど続く、その上を登ると生け垣の間に木戸がある。
この家にしては珍しく木戸は開いて、中の様子がうかがえる。それを見て久しぶりに家主がこの家に帰ってきている事が確認できた気がした。
家主である紗英と来たら今時携帯電話も持っていないのだ、家の電話も止められているみたいで連絡が付かなかった。
本当に帰ってきているのだろうかと玄関の前で考えていると、年季の入った音と共に木製の引き戸が引かれた。
「あらヤス君」
引き戸が開けられて、和服を着た紗英が出てきた。
「紗英姉、その格好は?」
いつもはジーパンにTシャツなどラフな格好が多いのだが、久しぶりに会った妹島紗英は家に併せて古い、地味な和服姿だった。
「ああ、着る物なくなっちゃって、ちょっとお母さんの借りたの」
Tシャツが和服に替わっただけで紗英は何処か大人びた雰囲気を感じたが。伸ばすに任せた感じの髪が肩に掛かる所は何処か日本人形の様で若くも見える。
「ああ、えっと久しぶり」
「いつ帰ったの?」
「昨日だよ、紗英姉こそ何時戻ったの?」
「今月頭にね」
今はもう3月末、殆ど二年ぶりに日本に戻ってきた紗英はさらっと言った。
「だったらもっと早く連絡くれても・・・・・・」
「だってヤス君も海外でしょ?」
「うんまあ」
「まだ大学休みじゃないし、今回は声かけなくて良いかなあと思ったんだけど」
日本に帰ってきたら声掛けてってと靖孝は紗英に言ってあった。
「ヤス君のおかげですぐに住めたは」
紗英が留守中、家の掃除を含んだ手入れをしていたのは靖孝だった。 中学生の頃から、わざわざ海外留学している時も日本に戻ってきた時には必ず妹島家の掃除をした。
「この家は紗英姉の家だからね」