遠くて近い、狭くて広い家
町並みは変わっても変わらない距離、自分の家の前には直ぐに着く。家族は仕事で忙しくしていて誰もいない。荷物を置いて直ぐ家を出た。
海外に半年居ただけなのに、驚くくらい住宅地の周りの景色は変わった。新興住宅地といった感じで道路も綺麗に舗装し直し、新しい小さくて綺麗な家が立ち並ぶ。ついこの間まで住んでいた景色が跡形もなく消え去って、新しい景色が上書きされている。
靖孝は悔しい悲しいといった負の感情よりも、潔いよく跡形もなくなった景色にただ呆れてしまった。
そうだ、永遠と続くモノがないことは大人になって知った。世の中は時々驚く暇もないように、個人を置いてけぼりにして先に進んでしまう。
都内の土地が高くなり、またこんな都内から離れたこの土地も人が住みに戻りつつあるらしいことは海外にいた靖孝にも耳には入っていた。
本当に時間が流れている。自分が住んでいた場所がないことを寂しいと感じている。
しかし、今から向かうもう一つの故郷への道を歩いていると相変わらずでなにも変わっていなかった。
郊外の住宅地を抜けると直ぐに沢山の畑が現れた。典型的な郊外の風景に小さな小川が見えるといよいよ田舎臭く見える。幾分整理された支流の沿道には木とベンチが並ぶ、自分が川で遊んでいたときには無かったものだが遠くに見える本流に掛かっている大きな鉄橋は相変わらず無骨なままだった。
川を越えた所には綺麗に造成された土地が現れた。
のっぺりとした奇妙な高台、周りには畑も林もなく、低い生け垣に囲まれた古い家が見えた。
「ココだけは変わらないな」
声に出して靖孝は嬉しそうに下を向きながら歩く。
高台の上の小さな家が今日の靖孝の目的地。古い木造住宅の平屋の建物は近づくにつれてその古さを表面に浮かび上がらせていた。
緑の生け垣から見える黒くくすんだ柱に板張りの壁。その横には家と同じくらい年季の入った木が寄り添っている。
元々取り壊されて靖孝の家と同様に住宅地として造成されるはずだったが、開発を担当した業者が倒産。最後に残った妹島家だけが運良く残ったのだ。
真っ平らな周りの風景と見比べるとまるで世界に一人だけ取り残された様にも見える。
そんな寂しそうな家に靖孝は嬉々として向かう。
靖孝にとって三歳年上の妹島紗英という存在は絶対だった。「紗英姉」と呼んで小さいころからずっと一緒に遊んでもらった。
作品名:遠くて近い、狭くて広い家 作家名:さわだ