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遠くて近い、狭くて広い家

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「一人で買い物にも行けないくせいに、ご飯ばっかり食べてるくせに!」
「あんたの無国籍料理よりヤス君の作るご飯の方が美味しい!」
二人は家族のように、友達のようにじゃれあった。
古い家からは笑い声が絶えず、靖孝は歩きながら何か後ろ髪を引かれる。
二人を見ていると、なんとも言えない。いや正確には紗英一人だが、十年の時を隔て二人が対峙している。
「寂しくはないか」
丘の下から振り返った家は朝日を浴びて、木漏れ日に沈んでいた。
ふと靖孝はこの非現実的な二人の紗英に囲まれることになった生活の事を考えた。憧れていたときの紗英と、すこし自分に甘えてくれる紗英。どちらも年齢と気持ちのギャップを抱えている。
一つだけ確かなのはどちらも、自分を必要としている事だった。
十五歳の紗英は大人になった自分を認めてくれる。
二十五歳の紗英はパートナーとして自分を認めてくれた。
嬉しかった。
誰かの支えになれることがこんなに楽しいこととは思っていなかった靖孝は、自然と軽くなる足取りが不思議だった。
帰ればあの二人が待っていてくれる。
メチャクチャだけど、理屈になっていないけど、紗英があの家で待ってくれている。
「凄い家だ」
古ぼけた名もない小さな家が、急に凄い理屈でできているかのように感じた。
当たり前のことが急に砂上の楼閣の様に感じられた。
不安になって靖孝は振り返る。
家はいつものように変わらぬ姿で、何食わぬ顔で低い丘の上に佇んでいた。
変わらない景色に安心する日々を停滞とは言いたくなかった、今はただこの染みこむような充実に身を浸していたい。 当たり前が壊れていく世界で、変わらないことの難しさと素晴らしいさを古いままの景色が教えてくれた。
靖孝は出たばっかりなのに、もう家に帰ることばかりを考えていた。

「ヤス君凄く喜んでるね」
「浮かれてる所なんて始めて見た」
生け垣から二人は足早に出掛ける靖孝を見ていた。
紗英は自分が靖孝に場所を用意してあげられて内心安堵していた。本当はお金など取りたくないのだが、逆に靖孝に気を使わせる位ならハッキリとさせた方が良いと思った。
もうどっちかが一方的に甘えたり、依存したくはなかった。
「じゃあ家に戻ろうか?」
「私は今この家に居ていいと思う?」