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遠くて近い、狭くて広い家

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やっぱり最後は自分の事。十年前の自分と今の自分の間にある経験の差はあっても変わらない本質に強い繋がりを紗英は感じた。自分はやはりあの家で母に育てられた。それは何て揺るがない強固なものなのだろうと。
母が残してくれた服を着ながら、素直に感謝した。
紗英の身体に暖かい何かが服から染みこんできた。初めての感触に心臓が鼓動を早めた。
「ヤス君」
靖孝が紗英の後ろに立って、腕を伸ばして紗英の後ろから覆い被さるように手すりに手を付いた。
「ごめん、紗英姉があまりにも寂しいこと言うから・・・・・・」
たまらずに靖孝は紗英を包み込んだ。こうやって抑えておかないと壊れてしまうと思うような儚さだった。
「ありがとう」
車が後ろの車道をゆっくりと通り過ぎた。そんなものも気にせずに二人は影を重ねた。
「ヤス君が居なかったら私はあの家も失っていた。こんな風に逃げた自分も許せなかった」
「紗英姉は立派だよ、十分に立派だよ。一人で頑張ってきたじゃないか」
耳元での靖孝の声。紗英にはくすぐったかった。
「一人じゃないよ、一緒に居てくれる人が居るもの」
紗英は近くに居る人の確かさを感じていた。生きているとか死んでいるとか、遠くにいるとか近くにいるとか関係ない。幻であってもそれは差が無いように思えた。
「だからねもう大丈夫、逃げない。あの家でしっかりと生活してみせる。お母さんが残してくれたもの、大事にしたい」
すこし首を動かして、靖孝の耳元に紗英はささやく。
「ありがとう」
感謝の言葉だが靖孝には別れの餞別に聞こえた。
「帰りましょうか」
靖孝の腕を巧みに紗英はすり抜けた。名残惜しく靖孝は紗英の姿を見上げる。
やっぱり今自分の抱えている紗英は幻なのか。海岸での光景が重なる。
「何処へ?」
「家に決まってるでしょ?」
さっきまでの甘い空気など何処かに忘れてきたのか、何時もの紗英姉だった。
「うん・・・・・・」
「ヤス君と私の家に帰りましょ」
「えっ僕と?」
指で自分を指しながら、靖孝は大きな声をだして驚いた。
「だってあの家で暮らしたいんでしょ?」
「でも、紗英姉も・・・・・・」
「うん、だから一緒に住めばいいじゃない?」
一言で紗英は靖孝を絶句させた。