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遠くて近い、狭くて広い家

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「やっぱり紗英姉にはあの家が一番なんだね、本当はね紗英姉にお願いがあって日本に帰ってきたんだ」
「お願い?」
しっかり者の靖孝が人にお願いするなんて考えもつかなかった。
「僕は今月からあの家を借りようと思ってたんだ」
とっぴょうしも無いがお願い。
「ヤス君には立派なお家があるじゃない・・・・・・留学は?」
「いい話が来たから売却するんだって、僕の両親には家なんて多分その程度のものなんだ。それに海外の生活も楽しかったけど、やっぱり僕は日本人で、自分の身体に合う建築をやりたいんだ。丁度師事している先生の紹介で横浜の事務所を紹介してもらったら是非って言われてね。大学の勉強は休学になるけど、良い機会だし勉強したいんだ日本で」
「そう、この土地を離れるの?」
「いややっぱり僕はここの中途半端な感じが好きなんだ、だから日本の生活拠点をこの辺で探していて。色々と見て回ったけど、やっぱり僕も紗英姉の家のことしか思い付かなかった」
「もっと早くいってくれれば・・・・・・」
「僕が居ることで紗英姉があの家に帰って来られなくなるのは嫌だよ」
靖孝もあの小さな家は紗英の家だと思う。
「紗英姉、僕も打算で動く大人なんだ。僕が家をちゃんとメンテナンスすれば紗英姉は何度か帰ってきてくれる。僕の事思い出してくれる。そう思ってこの十年つきまとっていたんだよ」
「変わってる」
「僕もそう思う。自分を見てくれない相手に必死に何をやっているんだろうって思うことは度々ある。けど僕はやっぱり遠くをそうやって見ている紗英姉の顔が好きなんだ」
「そんな景色みたいに扱われて嬉しくないよ」
「ごめん、けど僕は忘れられないんだこの景色が。紗英姉と一緒に見た事、感じたことが」
紗英と眺める古い家、いや自分の家を嬉しそうに、寂しそうに見ている紗英が忘れられない。
「だから今日正面から顔を・・・・・・十年前の姿だけど、始めて僕を真っ正面に見られて嬉しかったけどやっぱり恥ずかしかった。けど、紗英姉はもっと恥ずかしそうだった」
「ヤス君」