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遠くて近い、狭くて広い家

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昔の自分の幻の事をオバケと言った。
「実はね、十年前の紗英姉に会ったのは初めてじゃないんだ」
「どういうこと?」
「この十年だったら僕の方があの家に居る時間長いんだよ。まああまりにも非現実的だし、錯覚だって思って誰にもこの事は話してないけど。僕が何時も居間を掃除したり、庭掃除をするとね縁側に座って今の紗英姉見たいに遠くの空を見てた」
靖孝は最初は目の錯覚だと思った、目を擦ると消えたりした。だが掃除で訪れる度に、誰かがまだ住んでいるような気がしていた。
段々歳月を重ねる度に、紗英の姿、特に縁側に座る紗英の幻は鮮明になっていった。なるべく感情を抑えた何処か嬉しそうな顔で遠くを見つめていた。
「十年前の紗英姉はずっと待ってたんだね。紗英姉が家に帰ってくるのを、お母さんの部屋開けるのを」
「何でそんな風に思うの?」
「やっぱりあの家は紗英姉のモノなんだ。それを言いたかったんじゃないのかな? 処分したって良いけど、忘れられるのは嫌だったんだよ」
「じゃあ何でお母さんの姿で出てこないの?」
「なんでだろう?」
靖孝は理由を思い付かなかったが紗英は薄々感じていた。多分母親の姿出てきたらそれこそ縋ってしまう。死を否定してしまうからだ。だとしたらこの幻を見せている何かは悪意のないものだろう。ただ理由を説明してくれないところは歯痒い。
「変な家だね。小さくて古くてぼろい癖に幻まで見せる。私には荷が重い」
「そんなことないよ」
「私、日本で働こうかなって思ってたんだ」
「僕が海外まで追いかけてきたから?」
「違うよ、そんなんじゃない」
「じゃあどうして?」
「遠くを見ていてね、何時もそこへ行ってみて生活をするんだけど。結局私はそれを繰り返しすぎて何処にも行けなくなった」
紗英が地球を一周以上した、寒いところ熱いところはもちろん、石の家、草の家、氷の家、ガラスの家で暮らしてきた。どれも貴重な体験だったが、較べるのは自分の持ち物である家とだった。
消去法で紗英はそのことを確かめたんだと靖孝は気がついた。それは恐ろしい程根気のいる作業だ。
しかし紗英を駆り立てた原動力、母親のいない家に居たくない事と他の安住の地を探し求める心は深い穴でどん欲に世界各地の生活を飲み込んでいった。そしてどの場所も紗英の空白は埋められなかった。