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遠くて近い、狭くて広い家

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「私もあの家と同じように十年前からなにも変わらない」
「そんなことないよ」
先ほどまで見ていたスカート姿の軽やかな少女が、目の前の和服の女性へと変わっている。単純な外見だけの違いではない、軽やかだったものが年月と共に重みを増していた。
「今の紗英姉は十年前のあの紗英姉じゃない、今日十年前の紗英姉と一緒に居て分かったよ」
おかしな話だと思いつつ、靖孝は今日の始発電車の事を思い出した。
「確かにもう制服は着てない」
「外見だけじゃないよ」
軽口も元気はなかった。
「紗英姉、これからどうするの?」
「私?」
「また海外行くの?」
「最初はそのつもりだったけど・・・・・・考えてる」
いつもは家に帰ってもすぐに海外へ出掛けてしまうのに、紗英は躊躇していた。
「私、お母さんが亡くなってから始めてお母さんの部屋に入ったの」
奥の寝室には母親の嫁入り道具、立派な古い箪笥や化粧台が並んでいる。
「十年入った事なかったの?」
うんと家主は小さく頷いた。靖孝でも掃除のために何度も入っているのに、娘の紗英は一度も襖を開けた事がなかった。
「今年始めて入ったの、何でか知らないけどすんなりと」
「紗英姉、お母さんが亡くなったこと、まだ納得出来ないの?」
「そういうことなんだよね、部屋に近づかなかったのは。ヤス君、分かってるならって顔しないで」
「ゴメン、悲しいのは分かるけど・・・・・・」
「なんで逃げてるのか?」
そこまではいっていないよと出かかった声は、紗英の鋭い視線に止められる。
「見て」
遠くに紗英の家が見える、小さな家だった。周りに較べる建物がなくてもそれが小さくて、どんな建物よりもこじんまりと見えた。
「小さい家でしょ、木でできている小さな家。外国で君の家はって聞かれる度にね、木と紙でできてるって言うとみんな冗談だろって」
石でできているヨーロッパ、土や煉瓦で作られた家に住んでる人にとって、木を加工して作る家は中々想像できないだろう。
「でもやっぱり「家」と聞いて想像するのは、あの家なの。ヤス君とお母さんと暮らしたあの家。やっぱりね世界中旅しても私はあそこに帰ってきてしまう、何処に行っても、何をやっても」
「紗英姉はあの家が嫌いなの好きなの?」
「わからない」
「僕はあの家大好きだよ」
「お化けが出る家よ」