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遠くて近い、狭くて広い家

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笑いながら紗英は腕を伸ばした。ピント張られた紗英と靖孝の腕、体重がかかるが驚くほど軽い。
高校生に入ったばかりの頃の紗英はこんなにも軽く、小さく未成熟な身体。そのままあの古いけど優しい家を出て、一人で生活していたのだと思い知らされた。
誰か彼女を止めることが出来なかったのだろうか?
「ありがとう、十年経っても私の側に居てくれて、一番嬉しかった。当たり前の事なんてさ、なにも無いんだよ。だからヤス君が当たり前のように未来に居てくれて、立派な大人になってくれたこと嬉しいな」
紗英の嬉しいという言葉と全ての光を吸い込んだ潤んだ瞳。何時か見た紗英の横顔はこの本当の表情を隠す為の嘘でしかなかった。
本当の紗英は目の前の少女の様に、とても多感に世界を見ていた。
靖孝はいつの間にか紗英を風景のように扱っていた事に気がついた。
紗英は風景じゃない、こんなにも暖かい温もり。
「じゃあまたね・・・・・・」
滑り落ちる様に手が逃げていった。バランスを取っていたもう一つの重りはまるで最初から無かったように消えてしまった。
そのまま靖孝は砂浜に倒れ込む。
少ししめった砂浜に埋まる。
身体は動かない。

倒れ込みながら、目を開ける。
何時もの光景。
古い天井、何度見たのだろう?
「全く、何時まで寝てるの?」
「お母さん?」
「私だよ、わ・た・し」
制服を着た昔の自分が立っていた。
「まだ寝てるの?」
「ちょっと横になってただけ」
昼過ぎ、居間で机に俯せで寝ていた紗英が上体を起こす。長い髪を掻き上げて整える。
「ほんと、お母さんそっくりね」
背筋を伸ばした和服姿を十五歳の自分が感心している。
昔の自分に似ていると言われると、何となく否定は出来ない。
「そんな事無い」
「お母さんの方が綺麗?」
「分かってるなら聞かないでよ」
目の前に立っているのは十年前の自分なのだ、当然考えてることも同じ筈だ。
「ヤス君は?」
「海岸に置いて来た」
「デートなのに?」
「これ以上貴方のモノを引っ張り回しちゃ悪いからね」
悪戯そうに昔の自分が笑う。
「別に私のでも貴方のでもないわよヤス君は・・・・・・」
「そうは思ってないでしょ、ヤス君も貴方も」
「何が言いたいの?」
「何時まで、逃げてもしょうがないじゃない?」