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遠くて近い、狭くて広い家

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朝の五時に紗英の家に行って、十五歳の紗英を迎えに行った。 今の紗英はぐっすりと寝ているらしかった。
自分でも不思議に思うくらい靖孝が律儀に約束を守ったのは、やはり条件反射なのだ。
十年前の絶対的基準であった妹島紗英の発言はもっとも尊重されるモノなのだ。それが幻から発せられた言葉だったとしても。
手を繋がなくても、こうやって二人で何処かに出掛けるなんて考えたこともなかった。
それは今でもだろうか?
あの家から離れるという選択は二人にはない。
紗英が居ない時は靖孝が家の手入れをする。靖孝が居ないときは紗英がそこに住む。そんな繰り返しをしている。
周りからはおかしいと言われている。
けど当人達にとってはもうあの家がない方が考えられない。
靖孝に取っては変わらない安心できる場所。
紗英にとっては帰ってくる所。
ずっと続くと思っていたこの環境に突然十年前の紗英が現れた。当時と変わらない姿で、けど何処か子供っぽい言動。それはただ自分が彼女より大人になったから感じていることなのだろうか?
無邪気な寝顔が少し笑ったような気がした。
恥ずかしくなって窓を見てる。 家とビルの間、遠くに海岸線が見えた。
「海だ」
電車を降りて、海なんて無いように見えたが防風林を抜けると直ぐに海が開けていた。すこし強い風が紗英の短い髪を揺らす。手を握りながら誰も居ない海岸を歩く。紗英はローファーのまま砂地に足を踏み入れる。
「人、少ないね」
早朝の海岸に人は少なく、さっき犬の散歩をしていた人が一人遠巻きに擦れ違っただけ。
靖幸は散歩していた人にはどう見えたのだろうかなんて考えた。恋人同士には見えないだろう、仲の良い兄妹辺りだろうか?
「何か寒いね」
紗英が身体を寄せる。これなら嫌がる女子高生を連れ回す悪い大学生には見えないだろうか?
「それにしても人の少ない海岸だね」
「静かな方が良いかなって思ったんだけど・・・・・・」
「そうだね、私はオバケみたいなモノだから」
「ねえ本当に君は幻なの?」
「そうだよ、手を離したら消えちゃうよ」
紗英は強く靖孝の手を握った。
「どうして出てきたの?」
「自分が生まれてきた理由なんて知らないよ」
興味なさそうに紗英は顔を背けた。
「ヤス君は何時まで家に居るの? また海外に行くの?」
逆に質問されるとは思わず、思わず苦笑した。