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遠くて近い、狭くて広い家

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靖孝の目の前にいる紗英は確かに十五歳の姿だが、中身は全く別人の様だった。靖孝が知っている紗英はどちらかというと他人と距離を置く、静かなイメージがある。だが、目の前の紗英は好奇心を失っていない思春期にだけ許される未来の模索を楽しんでいるようだった。
「まあこうやって三人でご飯食べられると嬉しいかな」
「三人?」
「何か今の私はお母さんみたい、元気なころの」
母の着物を着た紗英は確かにそっくりだった。着ているもののせいか何処か落ち着いても見える。
「結局同じ事を繰り返したいだけなのかな、私?」
台所から戻ってきた紗英、持っているお盆の上には湯飲みが三つ並ぶ。
「はい、お茶」
目の前に湯飲みが置かれる。
「ありがとう」
「なに普通にお茶入れてるのよ?」
「いや、脂っこいモノの後には良いかなあって・・・・・・」
「食い合わせの話じゃない、その前の話!」
顔を寄せて十五歳の紗英が詰め寄ると、二十五歳の紗英はゆっくりとお茶を啜る。
「熱い、熱すぎたかな?」
「ああ紅茶みたいだね」
のんびりとなにも無かったように会話を続ける今の二人に、十五歳の紗英は納得がいかなかった。
「ああ、もういいよ」
そう言って十五歳の紗英は靖孝に抱きついた。
「ヤス君じゃあ私と付き合って」

「五時半か・・・」
平日の私鉄、電車は緩やかな光の中を進む。
こんな時間に電車に乗る事になるとは思わなかった。
いや、自分よりも八歳も若い女の子の手を握りながら、電車に乗っていること自体が信じられない。隣で十五歳の紗英は小さな寝息を立てながら、靖孝の肩に頭を寄せている。
この寝顔は信頼なのか、ただ眠いだけなのか?
いや、そもそもこの子はこの世ならざる存在なのだ、寝息を立てる姿も、こうして握っている手を離してしまえば消えてしまうのだ。
本当に?
少し自分の手に込めた力を弱める、一瞬紗英の握る力が返ってきた。
靖孝が起きているのかと顔を覗き込と、紗英は目を閉じて寝息を立てる。
そんな顔を見て、靖孝はもう一度手をしっかりと握った。
どんな理由であれ、ずっと手を繋ぎながら遠くへ行くなんて考えただけでも恥ずかしいので、人気の居ない時間を選んだ。
朝にしたのは海が見えるところに行きたいという紗英のリクエストだからだ。