小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遠くて近い、狭くて広い家

INDEX|15ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

一体何なのだろう、走り出して逃げ出してしまいたいような衝動には駆られずに当たり前のように高校生の紗英と会話してしまっている自分に驚きながら一人で歩く。
今の紗英もまるで当たり前の様に対応していた。
温もりもある、影もあるから幽霊じゃないと断言できるかどうかは自信がなかった。どう考えても幽霊とかそういう類だ。
しかし目の前の若い女の子は紛れもなくあの日の妹島紗英で、自分の憧れていた人だった。
憧れは思い出を美化するという話を聞いたことがある。けど今目の前にいた紗英は美化などではなく、あの日の、この街を出て行く前の紗英だった。現実の懐かしい日々の紗英。
ふと気になって紗英から渡されたメモは見る、やや野菜や肉の分量が多かった。多分紗英は三人分の食事を作るつもりなのだろう。
ふと紗英は何時も諦めが早い事を思い出した。
何時も事実をあっさりと認めていた。
やはり同じ人物なのだろうか?
唯一の肉親の死すらも嘆くことなく認める、家の外に出られないことを認める、家に現れた幻の為にご飯を作る。
「紗英姉は何時も諦めが早いよ・・・・・・」
喜びも悲しみもどれも全部一緒に受け入れてしまう。
振り返ると、一軒だけ雑草だらけの高台に立つ古家は、まるで草原に立っている家の様だった。
十年前の紗英よりも、あの古い家の方が靖孝にはよほど幻に見えた。

■ 三

「ねえ、私は手を繋ぐと外に出られるみたい」
「ふーん、難儀ね」
食卓を挟んだ会話は大分シュールな感じがした。
久しぶりの畳の上での食事、といてっても靖孝の家には畳の部屋がない。つまりこの家での食事が久しぶりだった。
みそ汁とご飯だけで何だか落ち着く、野菜と魚のフライは何処に出もあったがやはりお椀に入った熱いみそ汁と白くて丸いご飯は上手かった。
十五歳の紗英は美味しそうにご飯を食べていた。
本当にこの子は何者なのだろう、幽霊がご飯を食べるとは思えない。
「ちょっと、なに掛けてるの?」
和服姿の紗英が魚のフライにビネガーを掛けているのを見て、十五歳の紗英は顔をしかめた。
「これはモルト・ビネガー、イングランドでは普通に酢を掛けてフライを食べるの」
「ああフィッシュ&チップスだね」
靖孝もロンドンには観光に行ったことがあるので抵抗は無かった。
「ええ、気持ちわるい」
「モノは試しよ」