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遠くて近い、狭くて広い家

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「なんかそうすれば、引っ張り出してくれる人が居ればこの家から出られるかなって・・・・・・」
突拍子な申し出に靖孝は困惑する。
「良いからやってみて」
どんと背中を押されて靖孝は門の外に出る。
目の前には十五歳の紗英が立っている。
幻には見えない、光を受けて輝いて見えるのは昔の思い出だからか。それとも彼女の魅力なのだろうかと靖孝は考える。
差し出された手を握る。
小さい手、魔法のようにスケッチを完成させていった手は自分が想像していたよりずっと小さかった。
強く握れば壊れてしまうような繊細な外見なのに、暖かい温もりが重なる。
紗英の瞳は信じていた。
何に確信を持っているのか分からないまま靖孝は細い腕を引いた、自然に紗英の足は前に出て門の敷居を跨ぐ。
絶対的だと想われていた境界はなんの意味もなくなっていた。
「やった、家の外に出られた」
紗英は強く靖孝の手を握る。
「何処に行こう?」
自由を手に入れた十五歳の紗英は今にも飛び出していきそうだった。
ちょっと待ってと声を掛けようとした瞬間、靖孝の手を離れて紗英は飛び出すと十五歳の紗英は突然消えてしまった。
溶ける様になんて生易しい消え方ではない、デジタルの様に有る無しの切り換えしか存在しないような、最初からそんなモノは無いと言わんばかりに目の前から煙や残像の様な名残もなく靖孝の手から離れた瞬間紗英は消えてしまった。
「紗英姉」
靖孝の探す声と同時に、戸口からガラガラと音が聞こえて、紗英が出てきた。
「ああ、なんだ手を離したら駄目なんだ」
「うわ」
玄関前に消えた紗英が立っていた。
「うーん、手を握りながらじゃないと外の世界には出られないのか?」
自分に課せられたルールに渋々ながら納得して、紗英は残念そうな顔をする。
「しょうがない、今日は諦めるか」
「紗英姉?」
「残念、ここでお見送り。まあ手を握ったままじゃ買い物にならないし」
あっさりと目標を切り替えて、門の前に立って見送る。
「早くご飯の材料を買ってきてよ、お腹空いたんだ。だって十年後の私はここん所ずっと家に居て買い物に行かないんだもの、ろくなモノ食べてない」
「ああ、うん、なるべく早く戻るよ」
「早くね」
十年前の紗英と約束して靖孝は家を後にした。