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遠くて近い、狭くて広い家

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今更の事実を紗英は口にする。
「だからね時々昔と何も変わらない同じ光景が見えることがあるのよ」
「それがこの変な状況を受け入れる理屈」
「理屈じゃなくて、理由かな?」
そういって紗英はメモを靖孝に渡した。
「買い物お願いできる?」
「紗英姉?」
「まさか十年後の歳を取ったおばさんのお願いは聞けないの?」
「そんなこと無いけど・・・・・・」
「お願いね、久しぶりだしみんなでご飯食べましょ」
渋々靖孝は渋々とメモを受け取った。
別に買い物を頼まれること自体は悪い気はしない。ただこの異常事態に陥っているこの家から離れるのが嫌だった。やはり心の底では異常を感じ取っている。
「どうしたの? 買い物頼まれたの?」
縁側に戻って靴を履くと、十五歳の紗英が声を掛ける。流石に自分の事だから直ぐに気がついたのだろうか?
「ああ、ちょっと行ってくる」
「まって、私も行く」
「この家の外には出られないんでしょ?」
靖孝はさっきの家の外の景色に溶け込んだ紗英の事を思い出した。
まるで最初からそんなモノは無かった様に、自然と景色に人の影が溶け込んだ。
「じゃあ玄関までお見送り」
そう言うと靴を履きかけた靖孝の腕を引っ張る。
「ちょっと待ってよ」
無邪気な十五歳の紗英は嬉しそうに靖孝の手を取る。
伝わる体温、目の前の幻は影を作りこの世界にしっかりと映りこんでいた。
靖孝は手を引っ張られながらこの現実を受け入れ始めていた。頭の中の理屈より、温もりの持つ説得力に屈した。
「ああ、私も外の世界を見てみたいなあ」
紗英は文句を言いながら片方の扉が開けられた木戸の前に立つ。
「ほら、あそこにあった家が無くなってる」
遠くに見える畑の先を指を差す。
「ああ、確か僕が高校の頃には無くなってた」
木戸の小さな枠を当てはめられた景色でも十年という景色は小さな変化を抱えている。若い紗英はそれがとても気になるようだった。
「街は変わってる?」
「うん、変わったよ」
「世界は変わっている?」
「うん、変わってる」
まだ手を握ったまま、紗英の目には抑えられない好奇心に彩られていた。
「ねえ、ヤス君ちょっとお願い、私を引っ張ってくれる? 門の外から手を出してさ、私を引っ張ってみてよ?」
「どうして?」