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遠くて近い、狭くて広い家

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靖孝はその後に思い知ることになる、死を受け止められる人間などそう多くはない。それも最愛の家族を亡くして平然とそのままでいられる人間など居ない事を。死は心に穴を開ける。決して埋まることのない大きな穴を。


十年後、同じ様に十五歳の紗英は遠くを見るように仏壇を見上げていた。
靖孝はまるで昨日のことのよおうに映し出される目の前の光景、十年後、同じ家で同じ人の横顔を見る。
何も変わっていない、遠くを見ている横顔。事実を受け止めた顔。
その顔は幻で。本物の紗英は歳を取り、母親の面影をより強く残していた。
「紗英姉落ち着いてるね」
「ずっとこの子出てきてから、アレは? コレはって? 聞かれるから疲れちゃった」
十年後の自分がどうなっているのか、それはとても気になる事だろう。
「だって私この家の外に出られないんだもの、話を聞いて確かめるしかないじゃない?」
「だからって一日中聞かなくても良いじゃない?」
「そんなにめんどくさがらなくても良いじゃない?」
二人の紗英はまるで母と娘の様な小さないざこざを起こす。
「ねえヤス君も十年後の自分を知りたいって思うでしょ?」
「ああ、まあ」
ホラねと嬉しそうに笑う。靖孝には目の前で笑う少女が幻だとは信じられなくなった。
「ヤス君はやっぱり高校生の私には逆らえないのね」
立ち上がり、台所の方へ歩く。
縁台から靴を脱ぎ、家の中に入る。
「紗英姉?」
古くて狭い台所で紗英は何かメモをしていた。
「本当にあの子は十年前の紗英姉なの?」
今更な質問を紗英にぶつけるが、気にせずに紗英は時々思い出したように上を向く。
「確かにあの子は十年前の紗英姉と生き写しだけど、こんな非現実的な事ってあるわけないよ」
「けど知ってるの」
「何を」
「中学生の時始めて告白された人とか・・・・・・」
「誰?」
「ホラね、私しか知らないでしょ。そう言うこともあの子全部知ってるのよ」
肩を掴んで聞こうとする靖孝を揺すられながらも、紗英はあっさり避けた。
「まさかこの数週間ずっとそんな話してたの?」
「ええ、おかげで大分昔の事思い出した・・・・・・お母さんが元気だった頃の話とか、私全然覚えて無くて怒られた」
頭を抱えたくなるような話を紗英はマイペースで続ける。
「一体どんな理由で十年前の幻が出てきたんだろう?」
「この家は古いじゃない?」