KNIGHTS~短編集~
喧嘩はよそうね、野口君
「なぁ、なんで飯島とメールしてるんだよ?」
夕飯を食べ終えて、カイの部屋で漫画を読んでいるといきなりそんなことを聞かれた。
「なんでって…、友達だし」
「だからなんで仲良くなってんだよ?」
なんでなんで、ってうるさいな。メールの件は片付いたんじゃなかったの?
「別に良いじゃん。普段は友達作れって言ってくるくせに」
人の友達にケチつけるとか、親にでもなったつもりですか小姑め。
「男じゃなくて女子の友達作れよ」
「女子の友達も困らない程度にはいるわよ」
だけど女子の人間関係はなんかネチネチしてて疲れる。下手なこと言ったらすぐに広まるし。
それに比べ飯島君は優しいし、相談したらちゃんとその場で返事をくれる。周りに影響されて意見を変えたりもないから、私も素直に友達として接することが出来るのだ。
「で、なんで仲良いわけ?」
「だって2・3年と同じクラスだったし。出席番号も近かったし」
何より彼は野球部だったから会話が弾んだ。女子なんかハンカチを持った王子様がどんな投球をするのかも知らないんだから、話にならない。
「あ、でもメールとかし出したのは中2の夏くらいだっけ?」
うん、確かそうだった。
夏休み中にあった登校日に、メアドを交換したということは覚えている。
「あん時、カイと喧嘩してたじゃない? それで相談乗ってもらってたのよ」
「……は?」
「カイと喧嘩なんて初めてだったし、仲直りの仕方とか分からなかったからさ」
そう言うと、カイは呆けた顔をしていた。
「……マジ?」
「うん。マジ」
今こうして当たり前のようにカイの部屋で漫画を読んだり出来るのは、飯島君の協力があったからだ。きっと、彼がいなければ気まずい関係がずっと続いていた。
「カイも飯島君に感謝しなさいよね」
「うわ、アイツに借り作ってたとかありえねぇ…」
溜息を吐いて、カイは頭を抱える。お世話になっておいて失礼なヤツだ。
「ひょっとして、それで飯島に懐いてんの?」
「懐くって…、人を動物みたいに」
だけど、今のように仲良くなったきっかけは間違いなくあの時だ。そう思えば喧嘩した甲斐があったかもしれない、などと当時抱いた感情とはかけ離れたことを考えた。
しかし、もう一度喧嘩してみるか、と問われたらそれは丁重にお断りする。あんなのはもうこりごりだ。
何をしてもつまらないし、上手くいかない。カイがいないだけで、自分らしさというものを完全に失っていた。
「ねぇ、カイは誰かに相談とかしなかったの?」
「俺? 俺は誰にも……あ、でもなんか飯島があん時しょっちゅう絡んできてたな」
「なんだ、カイもじゃん」
これで私が飯島君と仲良くしても文句言えないね、と笑えば、すごく苦い顔をしたから可笑しかった。
これが良い。
このままが。
喧嘩は嫌だけど、もしまたすることになったら、その時もちゃんと仲直りしよう。
そしてこうやって、いつでも好きな時にふたりでいる生活を続けていくんだ。
作品名:KNIGHTS~短編集~ 作家名:SARA