時の部屋
彼女はすごいすごいと連発して、小躍りしそうなくらいに喜んだ。女子高生らしい、無邪気なはしゃぎっぷりだった。新座鷹宮大学、通称新鷹(あらたか)と言えば、知らない人はほとんどいない一流私大である。何も知らない彼女が聞いて喜ぶのは当然だろう。
「でもね、実は」
「あの、一日何時間くらい勉強しました!?」
私の言葉を塗りつぶして、目を輝かせて彼女は訊いた。
「えっと、高二の時はだいたい六時間くらい、かな。予備校も含めてだけど」
「六時間! 一日の四分の一勉強にあてたんですか! すごいなぁ、私絶対無理だ……」
そう言って彼女は少しうつむき気味に微笑んだ。私がやったことなのに私絶対無理だとは妙な話である。
それにしても、このころの私は本当に明るい。私は彼女と話していて楽しかった。四年前はこんなに魅力的だったのだ。
彼女はカバンから携帯を取り出して開き、液晶を一瞥した。
「あ、もうこんな時間」
私も腕時計に目をやった。確かに、もう両親が帰宅してもいい時刻になっていた。
彼女はカバンを持って軽やかに立ち上がり、
「じゃあ私帰りますね。なんか不思議な感じだけど、楽しかったです!」
「あ、ちょっと待って」
私も急いで立ち上がり、玄関へ向かう彼女を呼び止めた。
「なんですか?」
彼女は顔だけ振り返り、私の言葉を待った。
「ねぇ、明日もこの部屋で会わない? えっと、夕方六時とか。部活休みでしょ?」
彼女は薄く微笑みを浮かべ、
「またこの部屋に入るんですか?」
「一回も二回も同じよ」
そうですね、と彼女は笑った。
「じゃあ明日の六時、またここで」
私も笑ってうなずく。彼女は茶色のローファーを慣れた様子で素早く履くと、ドアを開けて出て行ってしまった。ドアが閉まる。ばた、と音。
「なんか……、変な感じ」
現実感がなさすぎて、逆に驚きはない。私が靴を履いてドアを開けると、雨あがりの涼気を含んだ風がマンションの廊下を吹き抜けた。やはり、あの部屋にいる間に二日続きの雨はようやく止んだらしい。それにしたってあんなに急に晴れるとは驚きだ。
そしてふと、彼女がどこに帰ったのか気になった。