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時の部屋

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 景色、か。気持ちは分かった。私は始めて訪れる部屋では、最初と最後に必ず窓から景色を見る癖があるのだ――そういえば私はまだ見ていない。さりげなく窓に視線をやると、太陽はすでに沈み、空は深い藍色に染まっていた。切れ切れの雲が青い陰影を伴って、その日最後の陽光を浴びて仄赤く燃えているように見えた。
 ぽつりと、
「雨、止んだんだ」
「何か言いました?」
「ううん、なんでもない」
 私はふと思いついた。
「ねぇ、山田芳徳って覚えてる?」
「やまだ……、あぁ、中学のときの彼ですか。死ねばいいのに」
 やはり覚えていた。彼女は私だと確信を深める。
「どんな顔してたっけ?」
 彼女はすこし考えて、
「うーん、なんていうか、ドラえもんを薄めたような……」
 瞬間、私の脳裏を光がよぎった。 
「あぁ! そうそうそんな顔! ありがとうやっと思い出せたわ!」
 どういたしまして、と彼女は言った。表情からしてどう見ても引いている。
 だが私の頭の中では、ドラえもんを薄めたような山田の顔が鮮明に浮かんできてそれどころではなかった。顔がはっきりすれば腹立たしさも倍増である。ともあれ、これで彼女が四年前の私であるという確認もできた。
 しばしの沈黙。
 彼女は私の顔をまじまじと見つめたまま、何も喋ろうとしない。
「な、なに」
 頭から足先まで興味深げに私を見つめて、
「いや、なんか、私変わったなーって」
「あー、そう、ね。高校時代とはだいぶ違うかも」
 高校二年生のとき、あることがきっかけで、私はその装いを大きく変えた。いわゆるイメチェンである。髪の毛の色を戻し、ばっさりと短くした。派手な匂いの香水をつけるのをやめた。スカートの丈をひざ上二センチに戻した。そしてそのイメージは、大学二回生となった今でも受け継がれている。
「なんかすごい不思議な感じ。ねぇ、大学はどこいってるんですか?」
 大学――
 私は床に視線を落として瞬時ためらい、
「……新座鷹宮、法学部」
 一瞬の間があり、
「にいざたかみや、って、え、もしかして新鷹!? すごい! 私やっぱり頭いいんだ!」
作品名:時の部屋 作家名:諫城一