時の部屋
そう言って、ごまかすような笑いを浮かべた。鏡の前でごまかし笑いを浮かべた経験はないので確証はないが、きっと高校生の時の私ならこんな顔になったのだろうなと思う。世界には自分に似た人が三人いるというが、彼女はその一人だろうか。それともドッペルゲンガーか。
彼女はそれきり下を向いて喋らなくなってしまったので、とりあえず私は靴を脱いで部屋に上がった。このまま引き返してはいけないような気が、なぜかした。
「えー、と、明智明日香といいます。はじめまして」
そう言って、軽く頭を下げる。
すると彼女は再びぱっと顔を上げた。目を見開き、心底驚いたような表情で。
「ほんとですか! 私も明智明日香っていうんです! えっと、漢字は――」
「もしかして、全部に日の字がはいってる?」
私が言うと、彼女は何で知っているんだという顔を一瞬して、それから首を何度も縦に振った。
これは、まさか――
「あなたの通ってる高校って、もしかして」
「依里坂(いりざか)高校ですけど……」
私の母校だった。
「いま何年生?」
「二年生です」
「てことは十七歳?」
一瞬不審そうな顔をして、彼女は小さくうなずいた。
「出席番号は一番で、去年は二番だった? 誕生日は五月十九日?」
彼女の表情がみるみる陰っていく。どこか不安げな、気味の悪そうな顔をして、「なんで知ってるんですか」と小さく言った。
次だ。
次の質問で、全て分かる。
いつの間にか、心臓の鼓動が耳に痛いほど高まっていた。
緊張に固まる喉を奮い起し、
「あなたは西暦何年生まれ?」
彼女はいぶかりながらも、口を開いた。
「……一九八九年、です」
あぁ――
間違いなかった。
彼女はまぎれもなく、四年前の私だ。
◇
部屋の真ん中に、私たちは座って向かい合っていた。
「それで、鍵を拾ったらちょっと魔が差したって言うか、最近空室になったばかりだし入ってみようかなって……」
「私とほとんど同じじゃない」
「ほんとですか?」
嘘をついてどうする、とも思ったが、黙っておいた。
「ちょっと部屋の中を見たら帰るつもりだったんです。で、最後に窓から景色を見てたら――」
「私が入ってきたのね」
彼女はうなずいた。