時の部屋
ただ一つ異質な点を挙げるとすればそれは、部屋の真ん中に、こちらに背を向けて女子高生が立っているということだろうか。
あまりの出来事に私は硬直した。セーラー服の上にベージュのカーディガンを羽織っているらしい彼女は、小ぶりなカバンを傍らに置いて窓から景色を眺めているらしかった。肩まで暗い茶髪がかかっている。私も女子高生の時はあんな色であれくらいの長さだったっけ、とのんきな思考が浮かんで消えた。
そして、物音に気づいたらしい彼女がこちらに振り向いた。
謝ろうとした私は、そこで再び言葉を失った。
その女子高生は、どこからどう見ても、昔の私そのものだったのである。
◇
私たちはたっぷり五分は絶句した。
頭の中で状況を整理する。私はマンションの三階で空室の三〇一号室の鍵を拾い、つい出来心でそこに入り、するとそこには昔の私に瓜二つの女子高生がいた。
意味がわからなった。私は余計に混乱した。
彼女も彼女で、その表情からかわいそうなくらいに混乱していることが見て取れる。顔は本当に私にそっくり――というか完全に高校時代の私だった。
とりあえず、何か話さなければならない。宇宙人や外国人との交流も最初は対話が肝心なのだ。
「えっと、その、あなたは……」
唇が渇く。
「この部屋の、人?」
私がやっとそれだけ言うと、彼女は「ち、ちがいます」と蚊の鳴くような声で答えた。なんと声までそっくりである。
「じゃあ、どこから――」
彼女は私の言葉をさえぎるように、
「すすすいません! 出来心なんです! 勝手に入っちゃってごめんなさい!」
思い切り頭を下げられた。私もあわてて何か言おうとするが言葉が見つからない。彼女は頭を深々と下げた体勢から動く気配もなく、焦った私は彼女のところまで行こうとして、玄関の段差につまずいて前のめりに転倒した。びたんと派手に音を立てて、右ほほと両腕がフローリングに打ちつけられる。痛い。そういえばまだ靴を脱いでいなかった。
じんじん痛む両手を床について体を起こしながら、私は言った。
「あの、私もこの部屋の住人じゃないから、謝らなくて大丈夫……」
すると彼女は頭を上げ、
「あ、そうなんですか。ごめんなさい」