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時の部屋

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 管理人さんは見た目よりは若い口調で喋るが、このときは完全に目が笑っていなかった。どうやら意外と金がかかったらしい。
 私は手の中の鍵を管理人さんに差し出した。
「その鍵って、これですか?」
 管理人さんは目を丸くした。
「おぉ! これこれ。あれなんで君が持ってるの? どっかに落ちてた?」
「えぇ。この階のエレベーターのすぐ前に」
 管理人さんは寂しそうな笑みを浮かべた。
「そうかそんなところに……。でももう付け替えちゃったからなぁ……。もったいねぇなぁ十二万円……」
 彼はどこか遠い目で鍵を見つめた。
 私は腰から、深く頭を下げた。
「ごめんなさい。私、六月からこの鍵で三〇一号室に出入りしてました。鍵はお返しします。本当にすいませんでした。お金が必要でしたら支払います」
 目を白黒させる管理人さんに鍵を手渡す。
「え、マジで。うーん、六月かぁ。いや微妙な時期だねこれは。……うーん。まぁいいや。許す」
「え?」
 管理人さんは歯を見せて笑った。前歯に青のりが付着している。
「六月にはもう業者さんと取引してたしさ。大体鍵失くした点で俺が悪いんだし、うん、だからいいや。ところで――」
 管理人さんは手の中で鍵をもてあそびながら、
「君はなんでこの部屋の前に立ってるの? 忘れ物でもした?」
 心臓が跳ねた。
 アケミの顔が浮かぶ。
「いえ、なんでも――」
 わずかに言い淀み、
「なんでも、ありません」
 なんとなく管理人さんと目を合わせるのが嫌で、私は少しうつむいた。下を向くと、サンダルから覗く彼の足の指がうねうね動いて私に挨拶をした。キモい。
「あぁそうなの? ならいいけど。
 ……一回だけなら入れてあげてもいいんだけどなー」
 そこまで気を使われて、さすがに断れる私ではなかった。
 顔を上げて管理人さんを見ると、にやにやと子供のような笑みを浮かべていた。
「じゃあ、一回だけ、お願いできますか」
「よしきた」
 管理人さんはごそごそと作業着のポケットを探ると、一つの鍵を取り出した。金属の部分は先端が丸くなった細い長方形で、側面に複雑な凹凸が刻まれている。うろ覚えだが、同じような形の鍵が"高級錠"として紹介されていたような気がする。
作品名:時の部屋 作家名:諫城一