時の部屋
私が過去問の入ったクリアファイルを差し出すと、アケミはぱっと目を輝かせた。二年二学期期末考査から三年三学期中間考査まで全てが入っている。
「すごい! ほんとに持ってきてくれたんだ! ありがとうアスカ! ほんとにありがとう!」
アケミはクリスマスプレゼントを貰った子供のようにはしゃぎながら、クリアファイルの中身を確かめはじめた。すごいすごいと連発しながら、ついでに同封した私の解答用紙にふと目を留めて、
「……百点が三つある」
ぼそっと呟くとアケミは、今度は解答用紙だけを探し始めたらしい。「九十二、九十五、九十一、百……」と点数をぶつぶつ言いながら、クリアファイルの中身を漁った。
一通り漁り終わり、アケミが私を見る。
「アスカもカンニングしたんじゃないよね?」
「あなたと一緒にしないで」
アケミはぷっと吹き出した。私も直後に自分が言ったことのおかしさに気づいて、思わず笑みがこぼれる。
アケミはカバンのファスナーを開けて、クリアファイルをしまいこんだ。その手元を見て、私はあることに気づく。
「あら、その爪どうしたの?」
両手の薬指の爪に、プラスチックでできたオレンジ色の小さな花飾りがついていた。
私が訊ねると、アケミは嬉しそうに自分の指を見た。
「これ、ネイルアートよ。デビューしたて。学校用だからこれは地味なんだけどね」
あぁ――
「……そう。かわいいじゃない。似合ってるよ」
――変わり始めている。
「ほんと? これね、ほんとはもっとかわいいのよ! 薬指だけじゃなくて、五本全部に」
――私が呑み込まれた濁流を越えて、彼女はきっとこれからも泳ぎ続ける。輝く鱗をきらめかせて、綺麗なひれを翻(ひるがえ)しながら。
アケミが何か喋っている。
――自分が正しいと思っていた。言い聞かせてきた。だってそうするしかなかったのだ。私が一体いつどこで何をしたというのか。何が間違っていたのか。
「あ、あとさー。倉崎君ね、あぁ見えてすっごい不器用なの。家庭科で作ったクッション見せてもらったけど、なんていうかこれどこの遺跡から発掘されたのって感じ――」
話の内容など頭に入っていなかった。私の喉は顔は首は、意思とは無関係に機械のように相槌を打ち続ける。