時の部屋
後になって知ったことだが、そのとき私にボールをぶつけたのも倉崎であった。紅白戦でディフェンダーを三人かわしてからの会心のシュートだったらしい。ならば外すなと言いたい。
ちなみに言うと、私が瑠衣の誘いに乗ってハンドボール部のマネージャーになったのも彼の思い出によるところが大きかった。なんだかんだで、彼は私の初恋の人なのだ
私は素直に応援することにした。
「よかったじゃない。成就すると良いわね」
アケミはにやにやと笑みを浮かべたまま、
「うん、応援してね。あと一つ頼みがあるんだけどさ」
坂井による濡れ衣を回避できた記念だ。私はその頼みを聞き入れることにした。
「どうぞ、なんでも言って」
◇
定期テストの過去問を請求された。
なるほどその手があったか、と思う。
「私も私なりいろいろ考えたんだけど、一日六時間勉強はゼッタイむり! 不可能! だからね、推薦で大学いきたいなーと思って」
推薦、といっても私が通っていた程度の高校からでは大した大学にはいけない。トップの数名が中堅私立に拾ってもらえるくらいである。それ以外で大学進学を志す生徒は、正直素直に受験勉強をした方が楽だった。
だが、全定期考査のカンニングという荒技を使えば、労せずしてトップがとれる。つまりほぼノーリスクでレベルの高い大学にいける。アケミはそう踏んだらしい。さすがに新座鷹宮は無理だが、ある程度名の知れた大学に入れればもうそれで満足だという。同じ私としては少々複雑だったが、まぁかわいい自分の頼みだから仕方がない。その日、私は自室の収納をひっくり返して定期考査をまとめたファイルを発掘した。受け渡し日時は一週間後と話し合いで決めた。どうやら期末考査までに確実に入手したいらしい。
◇
毎週の火曜日、木曜日、土曜日はハンドボール部の練習のサポートをすることになっている。
主な仕事は水分補給のためのドリンクを人数分作ったり、練習時間の管理をしたり、練習後選手にタオルを渡したりといったところだ。アケミに過去問を要求された翌日。その日も奇跡的に晴れ、選手たちは太陽の下、汗を流して練習に励んでいた。時間管理は今別の子がやっている。ドリンクを作り終えた私と瑠衣は、練習の様子をグラウンドの端からぼーっと眺めていた。
「ねー、明日香ってさー、昔ハンドボールのマネとかやってたー?」