時の部屋
ふたり
その日は珍しく朝から晴れ空が広がった。私は大学の講義を聴き終えるとバイト先の飲食店に向かい、四時間ほど働いて帰路についた。マンションの前で腕時計を見ると、まだ六時前である。ふと思い立って三〇一号室の扉を開けた。中には、アケミが座っていた。
アケミは私に気づくと、右手を挙げて「よっ」とあいさつしてきた。私も軽く手を挙げてそれに応える。
「五日ぶりだね」
アケミがにんまりと笑った。そうね、と返す。
ここ五日間、私は気になって、不安で仕方ないことがあった。五日空けたのは忙しかったからではなく、答えを聞くのが怖かったからだ。
喉が震える。
「ねぇ、あれから、どうだった」
自分でも笑えるくらいにぎこちない訊き方だった。これではアケミも何のことか分からないと思いきや、意外にも彼女は得心がいったようで、すぐに返事をしてきた。
「あぁ、うん。坂井ちゃんね、部のお金盗んだのがばれて懲戒になっちゃったの。二週間停学」
それを聞いたとき、不謹慎ながら私は思わず笑顔になった。
「ほんとに? じゃあアケミは濡れ衣着せられずに済んだのね? やったじゃない!
――ていうか、本当に坂井が盗んだのね」
アケミは目を丸くした。
「あれ、適当に言ってたの!?」
「いや適当ってわけじゃないけど」
動機やアリバイなどから冷静に考えれば九割九分坂井の仕業だったが、確たる証拠などはなかった。あれば私もあんな目には遭わなかったはずである。
アケミはため息をついて、
「ちょっと勘弁してよ。本当に坂井ちゃんだったからよかったけど、すごいリスキーなことしたんだからね私」
私は身を乗り出した。
「なにそれ気になる。教えてよ」
「絶対やだ。適当なこと言う人には教えない」
「けちね」
アケミは目くじらを立てた。
「けちじゃないっ!」
なんだか、妙に機嫌が悪い。それとも私が思わぬ果報に浮かれているだけか。
「あのさ」
一転して、アケミは小さな声で切り出した。
「これってやっぱり、私がはめた、ってことになるのかな」
最初は意味がわからなかった。はめられたのは紛うことなく私だ。だが、彼女の場合事情が違うことも一瞬の後に了解する。彼女には坂井にはめられた過去などない。そういう感覚に陥るのもある意味、仕方のないことなのだろう。
だが――