時の部屋
わかるのだが、四年の月日を経た私にはそれが実感として湧きあがってこない。あのときの私がどんな気持ちだったのか、エピソードとして覚えているだけで、こうして四年前の私が目の前にいてもなんの感慨も覚えなかった。
頭より先に口が動く。
「気持ちは分かるけどさ、主役はやらせてもらった方がいいよ。みんなの期待を裏切っちゃだめだと思うよ」
あのとき私が同じ悩みに直面して、自分に言い聞かせていたことをそのまま言った。きっと彼女も、心のどこかで同じ言い訳をしているはずだった。
卑怯だ。
アケミはしばらく黙っていたが、やがて顔を上げた。顔には微笑みが張り付いているが、無理をしているのは明白だった。
「うん、そうだよね。私やってみる。坂井ちゃんのことも気をつけるね。ありがとう」
私も微笑みながらうなずいた。さりげなく腕時計に目をやり、時間を確認する。
「そろそろお母さんたち帰ってくるね」
私が身を起こすと、アケミもカバンを持って立ち上がった。
私は今思い出したようにねぇ、と声をかけ、
「アケミ、お開きにする前にちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「あなた、昨日ちゃんと帰れた?」
アケミは一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、すぐに質問の意図を理解したらしく笑顔を浮かべた。
「うん、大丈夫。ちゃんと二〇〇五年の六月十九日だった」
やはり、四年のずれはあるが、日付までぴったり同じらしい。短い廊下を歩きながら、私はほっとしたような笑みを浮かべてみせた。
「そっか、よかった。でも同時に部屋から出るのはなんかまずい気がするわね」
「確かに。どっちかの時代に迷いこんじゃいそう」
お互い、タイムパラドックスのたぐいに関してはドラえもんで得た程度の知識しかない。"なんとなくヤバそう"というレベルの行動も極力排除した方がよさそうだ。
唐突にアケミがあっ、と声を上げた。立ち止まる。
「そういえば私、今日みたいなこと聞いちゃってよかったのかな」
「どういうこと?」
アケミは少しうつむいて顔の横で人差し指をくるくる回しながら、うーんとうなりはじめた。私が何か思い出すときの癖だ。
「ほら、あれよあれ。バックトゥザフュージョンだっけ?」
「融合してどうすんのよ」
バック・トゥ・ザ・フューチャーと言いたいらしい。