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時の部屋

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 腕時計を見ると、時刻は午後六時を回っていた。
 悠長にエレベーターを待つ気にはなれなかった。急いで階段を駆け上がる。三階にたどり着き、三〇一号室の鍵を開ける。
 玄関には、茶色のローファーが一足。
 胸につかえていた不安が一つ、抜け落ちた気がした。もしこの部屋が昨日きりの奇跡だったら、と内心不安だったのだ。
 靴を脱いでそのまま奥の部屋に進み、まずは開口一番謝った。人間関係の基本は謝罪と感謝である。
 背筋を伸ばし、腰から体を曲げて、
「ごめん」
 足を伸ばして座る彼女は呑気に笑った。
「まぁまぁ。五分くらい誤差だって。そんなに神妙に謝らなくてもいいよー」
 どうやら四年前の私は時間に寛容だったらしい。五分は誤差というのはいかにも女子高生らしい、おおざっぱな理論だと私は思った。もちろん、計算を間違えて遅刻した私が悪いのだけど。
 私は昨日と同じく、彼女の正面に腰を下ろした。
「ねぇ、私たちの呼び方決めようよ」
 そう言ったのは彼女である。なぜかいつの間にかタメ口になっているが、私は気にしないことにした。たぶん同じ自分なら大丈夫と判断したのだ。私だってそうすると思う――自分だから当たり前か。
「呼び方?」
「うん。だってどっちも明智明日香でしょ。ややこしいよ」
 確かに一理あった。
 私は少し考えて、
「じゃああなたが小明日香。私は大明日香でどう?」
「だめ。安直すぎ」
 一蹴された。私は冗談のつもりだったのだが。
 彼女は天井を向いて目を閉じると、うーんとうなった。どうやらアイデアを絞り出しているらしい。「アケチアスカ……アケアンドアスカ……? アケアス……」などとぶつぶつ呟いたかと思うと、やがてぱっと顔を戻して、
「決めた! 私がアケミであなたがアスカね! 決定!」
「あ、アケミ?」
 思わず私が繰り返すと、彼女は得意げにうなずいた。
「明智のアケをとってアケミ」
 それこそ安直ではないかとも思ったが、私は賛同することにした。これ以上のアイデアも出そうにない。
「あなたがいいんならそれで構わないけど……」
「じゃあ決定。よろしくね、アスカ」
 そう言って彼女、もといアケミは手を差し出してきた。その手を握ると、アケミもぎゅっと握り返してくる。
「よろしく、えっと、アケミ」
 アケミは表情だけでにこりと笑った。
 一瞬の間があり、
作品名:時の部屋 作家名:諫城一