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ネコの音楽会

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 路地裏は、思った以上に入り組んでいた。どの道も綺麗な直線になっているけど、直角や斜めの曲がり角や分かれ道にいくつもぶつかる。暗闇の中だと、その分かれ道はかなり近付かないと気付かない。それでもココアは、迷うことなく右へ行ったり左へ行ったり真っ直ぐ走っていく。ココアに引っ張られて、同じように僕も右へ行ったり左へ行ったり真っ直ぐ進む。手を繋いでいる限りは、ココアと離れる心配はなかった。
「ココア、道分かるの?」
「ふふふ、私を誰だと思っているんだい?」
 ココアはかた苦しいような口調で言った。ココアがそんな口調を使うと、とても違和感がある。僕が知っているココアは、喋る変な猫くらいしか思っていなかった。少なくとも、路地裏を迷わないですらすら走れる猫というのは、今日初めて知ったことだ。
「もうすぐで着くよ」
 そう言って分かれ道を右に二回、左に一回曲がったところで、街の広場に出た。
 中心に噴水のあるこの大きな広場は、街の丁度真ん中に位置する場所にある。家からだとどんなに急いでも着くのに結構時間が掛かるのに、ココアの進んだ道の通りに進むとそれほど掛からずに着いてしまった。
「うわぁ……ココア、凄いね」
 路地裏を把握するだけでこんなにも早く着けるものなんだと、驚いた。ココアを見ると、ちょっと自慢げな目付きで僕の顔を見ていた。
 広場には、きらきらしたものが沢山散らばっていた。ふわふわと浮かんでいるものもある。空に浮かぶ星に似た、しかし見た感じはそれよりも大きなものが散らばっていた。空に浮かぶ星とは違って、広場に散らばっているそれは、触れようと思えば触れられるすぐ目の前にある。
「これが星くずさ。キミは見るのも初めてなんだっけ?」
「うん。綺麗だね」
 話している内に、ココアはさっさと星くずを掴んでは、いつの間にかどこからか取り出していた袋にほいっと入れていた。掴んでは入れ、掴んでは入れ、その動きは手慣れていてとても早い。
「空から欠片として落ちてくるのが、この星くずさ。色んなことに使えるらしくて、私のご主人がいつも欲しがっているんだ。だからこうして、沢山取れる日には集めているのさ」
「色んなこと?」
「色んなこと」
 聞き返すと、ココアは同じ言葉を繰り返して頷いた。
「キミも拾ってくれ。私一匹よりも、キミがいればもっと沢山取れるだろう」
「うん、分かった」
 そう返事をして、僕も早速星くずを取り始めた。ココアの取り方を真似て、一つ掴んでみる。星くずは、一つ一つがぼんやりと明るい。家の中で使うような明かりとは少し違う、きらきらとした光だ。触っても熱くないし冷たくもない。手の中でふわふわと泳いでいるようで、触っている感覚が全然なかった。
「ほら、袋はもう一つ持ってきてある。これに入れてくれ」
 ココアはタキシードの中から袋を取り出した。ココアの持っている袋と同じくらい大きいような袋だ。ココアから袋を受け取って、星くずを袋の中に入れた。星くずはふわふわと袋の底に落ちていって、中できらきら光っている。辺りを照らす光とは違って、星くずの光は周りには広がらない。袋の中は暗闇のままで、その星くずだけが袋の中を泳いでいた。
 暫く袋の中を眺めてから、ココアに負けじと僕も星くずを掴んでは入れて掴んでは入れる。
 ココアは、頭の上を浮かんでいる星くずを取ろうとぴんと背伸びをしていた。手をぐっと伸ばして、それでも届かないとぴょんぴょん跳ねて引っ掻くように手を振り回した。それでも星くずには手が届かない。僕はその星くずに近寄って、ココアの代わりに手を伸ばしてひょいと取った。
「……大きい体を持っていると、こういう時は便利で良いねぇ」
 見下ろすと、ココアはにやりと笑ってそう言った。本当は、相当悔しいのかもしれない。前に、一緒に遊んでココアが負けた時に、にやりと笑った時があった。その時も相当悔しかったのだと思う。ココアが悔しいと思う時は、いつもにやりと笑ってみせる。
「そうでもないよ、ココアみたいに星くずを取るのに慣れていないし」
 そう言って、ココアに今取った星くずを差し出した。ココアは笑うのを止めて、きょとんとした顔でそれを見た。
「頑張って取ろうとしていたし、これはココアにあげる」
「ふふふ、お情けなど猫の私には必要ないさ」
 猫だとお情けは必要ないものなのだろうか。
「でもそこまで言うなら、これは『私が頑張って苦労の末手に入れたもの』として、受け取っておく。だからこれは、私が手に入れたもので良いかな?」
 そう言ってココアは、僕の手から星くずを素早く掴み取って袋の中に入れた。
「うん、良いよ」
 ココアはまた、くつくつと笑った。いつもの影のある笑い方だ。ココアにも妙なプライドがあるのか、それとも猫にも妙なプライドがあるのか。人に貰うより自分が手に入れたものとしてとっておきたかったみたいだ。
 そうして暫くの間、僕たちは袋が目いっぱい詰まるまで沢山の星くずを取っていた。広場に浮かんでいる星くずの数も僅かになって、ちらほらと広場に漂っていた。さっきより広場が寂しくなった。
「ふふふ、沢山取れたね」
 ココアは星くずが沢山入った袋を自慢げに掲げて言った。袋はココアの半分くらい大きくなっている。
「僕も沢山取れたよ」
 ココアと同じように袋を掲げてみた。星くずが目いっぱい詰まっていたけど、重くはなかった。というより、殆ど重さを感じない。星くずはふわふわ浮いているから、重さがないのだろうか。
「これ、どうするの?」
 持っていた袋をココアに渡す。ココアは袋を二つ持ち上げて更に自慢げな顔を見せた。袋の重さを知らなかったら、もの凄い力持ちに見える。
「ご主人に渡して、色んなものに作り変えてくれるのさ」
「色んなもの?」
「色んなもの」
 聞くと、ココアは同じ言葉を言い返した。
「色んなものと言ったら色んなものさ。何にでも使えるらしいよ」
 何にでも使えるらしいと言われても、どんな何にでも使えるのかよく分からなかった。でもでも、これ以上聞いても、ココアも詳しく答えられないのだろうか。面倒臭いだけかもしれないけど。
 ココアは袋を一つ置いて、もう一つの袋から星くずを一掴み取った。
「手伝ってくれたお礼だ。やろう」
「でも、ボクが持っていて役に立つかな?」
「ふふふ、綺麗だろう」
 ココアの握り拳からは、星くずの光がほんの少し漏れていた。確かに綺麗だけど、僕じゃあ星くずを何にでも使えないし、持っていて意味はあるのだろうか。
「綺麗なんだから、持っているだけで良いのさ」
 そう言って、ココアはぐいぐい押し付ける。まあ、折角くれると言うのなら、手を出して一掴みの星くずを受け取った。無造作にズボンのポケットに入れた。ポケットの中でも、星くずは輝いているようだった。
「ありがとう」
 手伝って、ココアと同じくらい取って、一掴みの星くずとは割に合った報酬なのだろうか。まあ良いか、沢山貰っても困るし。それに、星くずを取るのも少し楽しかった。
「どういたしまして」
 ココアはにっこりといつもの笑い顔を見せた。捕まえていない星くずはふわふわと、僕たちの周りを泳いでいるようだった。
「さぁて、星くずは沢山集まったし、キミはこれからどうする?」
作品名:ネコの音楽会 作家名:白川莉子